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(41)平重盛の諫め

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 平重盛は涙を抑えて、「ただ今の仰せを承り、ご運ははや末になったかと思いました。人の運命が傾くときには、必ず、悪事を思い立つものです。また、そのお姿を見るに、さらに正気のこととは思えません」と答えました。

「わが国は小さな辺境の地とはいえども、天照大神のご子孫が国主であり、天児屋根命(あまのこやねのみこと)の末が本朝の政(まつりごと)を司ってからこのかた、太政大臣に至った人が甲冑を身につけるなど、礼儀にそむくことはなはだしい。そのうえ、あなたは出家の身。過去、現在、未来と、解脱を求めるしるしとしての法衣を脱ぎ捨てて、いきり立って、甲冑をまとい、弓を携えなさるとは、内には仏教の戒めを破るのみならず、外には仁義礼智信の法に背くことであります。重ね重ねも恐れ多い言い分ではありますが、心の底に趣意を残すわけにもいきません」

「まず、四恩があります。天地の恩、国王の恩、父母の恩、衆生の恩です。その中でも、最も重いのは、朝恩です。『普天の下王土にあらざるはなし、率土の浜王臣にあらざるはなし』といわれます。されば、かの、えいせんは耳を川のほとりで洗い、首陽山にわらびを折った賢人も勅命には背きがたく、礼儀を知りました。いかに、いわんや先祖にもいまだ聞いたことがない太政大臣にまで上りつめた人。重盛のような無能な愚者でも大臣になっております。それだけではなく、国の半ばは一門の所領となり、田地荘園はことごとく平家の配下にあります。これは、希代の朝恩でありましょう」

「今、これら莫大な恩恵にあずかりながらそれらを忘れ、みだりに後白河法皇を疎んじようとなさることは、天照大神、八幡宮の神慮にもそむくことです。そもそもわが国は、神国です。『神は非礼を受け給うべからず』といいます。そう考えれば、後白河法皇が思い立ったことにも、半ば、道理なしとは言えません。平家一門は代々朝敵を平らげ、四海の逆波を鎮め、比類なき忠義を尽くしていますが、その恩賞を誇ることは傍若無人というべきです」

「聖徳太子の十七条の憲法に、『人皆心あり。心おのおの執(しのぶ)あり。かれを是し、われを非し、われを是し、かれを非す。是非のことわり、誰かよく定むべき。相共に賢愚なり。環(たまき)の如くして端なし。ここを以って、たとひ人怒ると云うとも、かえってわがとがを恐れよ』とあるではありませんか。しかし、平家の運命がいまだ尽きていないために、後白河法皇の謀反がここに現れたのでございます」

「そのうえ、共謀した藤原成親卿を拘束しているからには、たとえ後白河法皇がいかなる怪奇を思い立ったとしても、恐れることはありません。当然の罪科を終えたうえは、一歩さがってことの次第を後白河法皇に報告し、君のために、いよいよ奉公の忠勤を尽くし、民のためには、ますますのいつくしみを以て接すれば、神明の加護にあずかり、仏陀の心にもそむくことはありません」

「神明仏陀の感応があれば、後白河法皇も考え直しましょう。君と臣には、親しむにも、疎んずるにも区別はありません。道理と非道を比べれば、道理につくべきです」

(2011年10月13日)


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