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ミニシアター通信平家物語 > (88)平重盛と瀬尾兼康の夢

(88)平重盛と瀬尾兼康の夢

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 平重盛という人は、生まれつき不思議の最も多い人でした。未来の出来事もあらかじめ悟ってしまっていたのでしょうか、去る4月7日の夜に、夢で見ていた事はなんとも不思議です。

 ある浜辺の道をどこまでも歩きつづけていると、傍らに大きな鳥居がありました。平重盛は夢の中で、「あれはどのような鳥居だ」と問うと、「春日大明神の鳥居です」と答える。人が集まっていました。中で、太刀の先に貫かれた、大きな法師の首が高く掲げられました。重盛が「誰の首だ」と問えば、「平家の太政大臣、入道平清盛殿の悪行が度を超したため、当社の大明神が召し取ったのです」。そこで夢から覚めました。

 重盛は、「平家は保元、平治からこのかた、度々朝敵を成敗し、勧賞は身に余り、天皇の外祖父となり、太政大臣を出した。一族の昇進者は60余人。20年来、官位昇進が天下に並ぶ人がなかったのに、さては、清盛の悪行が度を超すに至り、平家の運命も末となったか」と思い、涙を流しました。

 折節、妻戸をとんとんと敲く者がいました。重盛が「何者だ。あの音を聞け」と命じると、「瀬尾太郎兼康です。今夜、余りに不思議な夢を見ましたので、申し上げようと思い、夜が明けてからでは遅いと思い、参上しました。人払いをお願いします」との返事。言われたとおり、重盛は近侍の者を遠ざけて、瀬尾兼康と対面しました。兼康が見た夢は、重盛が見た夢とまったく同じでした。兼康がこと細かく夢の内容を告げる様を見て、重盛は、「さても、兼康は、神にも通じた者か」と感じいりました。

 翌朝、嫡子・平維盛が院へ出仕するため出かけようとすると、重盛が呼び止めました。

 重盛は、「親の身としてこのようなことをいうのは愚かなことだが、お前は、人並み以上に優れていると見受けられる。維盛に酒を勧めよ」と命じました。筑後の守・平貞能がお酌に来ました。

 重盛は、「維盛に与える酒だが、親より先には飲まないだろうから」と言って、先に、3度、飲みました。それから、維盛に杯を回し、維盛も3度、受けました。

 その時、重盛が「それ、維盛に引出物を渡せ」と平貞能に命じました。貞能はいったん下がり、赤地の錦の袋に入った太刀を持ってきました。

 維盛は「これは当家に伝わる『小烏(こがらす)』という太刀ではあるまいか」とうれしそうに見えました。しかし、『小烏』ではなく、大臣葬のときに用いる黒塗りの文の無い太刀でした。

 維盛は意外なことに不思議な様子でした。

 重盛は涙をさめざめと流し、「それは貞能の間違いではない。大臣葬のときに帯剣する『無文(むもん)』という太刀だ。日ごろから清盛殿に万一のことがあれば、重盛が帯びて葬列に参加しようと思っていた。今は、重盛のほうが清盛殿に先立つので、お前に与える」と言いました。

 維盛は返事もできず、涙を抑えて宿所に帰りました。その日は院へ出仕もせず、布団をかぶって伏してしまいました。

 その後、重盛は熊野神社へ参詣しました。参詣後、何日もしないうちに病気になり、維盛は、このことだったのかと思い知りました。

(2011年11月7日)


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