本文へスキップ

ミニシアター通信平家物語 > (349)上総悪七兵衛景清

(349)上総悪七兵衛景清

参照回数:

登場人物:那須与一、源義経、美尾屋十郎、美尾屋四郎、美尾屋藤七、丹生四郎、木曽中次、上総景清、田代冠者

 那須与一が見事、平家が掲げた扇を射抜き、沖の平家も、陸の源氏も、あまりのおもしろさに興が乗り、大騒ぎになりました。しかし、与一が、続いて船で舞いを始めた男を射ぬいたため、源氏は盛り上がりましたが、平家はし〜んと静まりかえりました。

 男を射られたことをおもしろくないと思ったのか、平家から、弓を持って一人、楯をついて一人、長刀を持って一人、合計3人の武者が陸に上がってきました。「源氏よ、ここに攻めてこい」と招きます。

 義経は「捨て置けない。馬強の若党たちよ、馳せ向かって、蹴散らせ」と命令を下し、武蔵の国の住人・美尾屋十郎、同じく四郎、同じく藤七、上野の国の住人・丹生四郎、信濃の国の住人・木曽中次の5騎が連れ立って、叫びながら、向かって行きました。

 美尾屋十郎がまっ先に駆けて行きましたが、楯の陰から飛んできた、柄を漆で塗ったうえに鷹の両翼の下の黒いほろ羽ではいだ大きな矢で、美尾屋十郎の馬の胸が、矢先が隠れる程に深く射られました。馬は屏風を返すようにひっくり返りました。美尾屋十郎は、左足を外し、右側に降り立ちました。すぐに太刀を抜きます。

 馬を倒した平家は、続けて、楯の陰から長刀を振り回して、美尾屋十郎に襲いかかりました。美尾屋十郎は小太刀では長刀に敵わないと思ったのか、ほうほうのていで、逃げ出しました。平家の長刀を持った武者が、すぐに追いかけます。しかし、長刀ではらうと見えましたが、そうではなく、長刀を右の脇に抱え、左手で、美尾屋十郎の甲のしころを掴もうとしました。美尾屋十郎は掴まれないと逃げます。三度、掴みかかって、4度目に甲を掴まれました。美尾屋十郎は、しばらく堪えていましたが、甲の鉢に付いている板を切って、逃げました。源氏の残りの4騎は、馬を射られることを惜しんで、駆けつけず、見ているだけでした。美尾屋十郎はその味方の馬の陰に逃げ込み、息を整えました。

 敵は追ってきませんでした。その代わり、敵は、甲のしころを長刀の先に貫き、高く差し上げ、大音声を上げました。

「遠からん者は音にも聞け。近き者は目にも見ろ。われこそ、京の童がうわさする、上総悪七兵衛景清だ」

 それから、上総景清は楯の陰へ引きました。

 平家では、上総景清の活躍に少し心持ちを取り戻し、「悪七兵衛を討たすな。者ども、景清を討たすな、続け」と、200人あまりが汀に上陸しました。楯を、左の翼で右の翼を覆う雌鳥のように並べ、「源氏よ、ここへ攻めてこい」と挑発しました。

 義経は、再び捨て置けないと、田代冠者を前に立て、後藤実基・後藤基清父子、金子家忠・与一親範兄弟を両翼に据え、伊勢義盛を後詰めにし、自ら80騎を率いて、突撃しました。

 平家は、馬に乗った武者が少なく、大方が徒歩でしたので、馬に踏み飛ばされまいと思ったのでしょうか、少しも持ちこたえることなく退却し、皆、船に乗り込みました。平家の楯は、算術に使う算木をまき散らしたように、散々に蹴散らされました。

(2012年2月6日)


(350)源義経の弓流し

(351)伊勢義盛

(352)源義経と梶原景時



平家物語のあらすじと登場人物




運営会社

株式会社ミニシアター通信

〒144-0035
東京都大田区南蒲田2-14-16-202
TEL.03-5710-1903
FAX.03-4496-4960
→ about us (問い合わせ) 



平家物語のあらすじと登場人物