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(118)以仁親王の脱出

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 いっぽうで、高倉の宮・以仁親王は、治承4年(1180年)5月15日夜の雲間の月を眺めながら、身に迫ることは何も知りませんでした。その折、三位入道・源頼政の使者という者が、文を持って急ぎ参上しました。

 以仁親王の乳母の子の六条佐大夫・宗信が文を受け取り、御前に行きました。

 以仁親王が文を開けると、「以仁親王の謀反はすでに露呈しました。以仁親王を土佐の国の幡多という場所へ流すために、検非違使の役人たちが、検非違使別当(長官)の命令を受けて、迎えに来ましょう。急ぎ御所を出て、園城寺三井寺に入らせたまえ。頼政もすぐに参上します」と書かれていました。

 以仁親王がどうすべきかと思い悩んでいる時に、以仁親王の侍で長兵衛尉・長谷部信連(のぶつら)という者が、ちょうど御前近くに伺候していました。

 長谷部信連が進み出て言いました。「何のことはござりません。女房装束で出発され、落ち延びられることがよいでしょう」。

 以仁親王は「それはもっともだ」と、髪の毛を乱し、御衣を重ねた上に女人の外出用の市女笠をかぶりました。

 以仁親王が高倉通りを北へ逃げ延びていると、大きな溝がありました。以仁親王がいとも簡単に飛び越えると、道行く人たちが立ち止まり、「あきれたものだ。女房の溝の越え様よ」と怪しげに見て言いました。以仁親王はすぐに足早に過ぎていきました。

 以仁親王は、御所の留守居に、長兵衛尉・長谷部信連を置きました。信連は、数人いた女房たちをここかしこへと避難させ、見苦しいものがあれば取りかたづけようと見ていると、なんと、以仁親王秘蔵の「小枝(こえだ)」という笛が寝室の枕元に置き忘れられていました。

 信連は、小枝を見つけて、以仁親王は立ち戻ってでも持ち出したいと思うに違いないと、「ああ、なんということだ。さしも、以仁親王秘蔵の笛を」と言い、五町(約550メートル)と行かないうちに追い着いて、小枝を渡しました。

 以仁親王は、大いによろこび、「私が死んだら、この笛を、棺桶に入れよ」と言いました。

 以仁親王は「このまま供をしろ」と信連に命じましたが、信連は「ただ今、御所に官人どもが以仁親王を連れに来るところです。誰もいないのは、極めて残念です。そのうえ、御所に信連が伺候していることは上下皆が知っていることです。もし、今夜、信連が御所にいなかったら、「それもそのはず、その夜、信連は逃げたのだ」などと言われ、悔しいです。弓矢を取る身は、仮にも名こそ惜しいです。官人どもの相手をしばらくして、一方を打ち破り、そのあとで、参上いたします」と言い、ただ1人で、御所へ取って返しました。信連のその夜の装束は、薄青の狩衣の下に、萌黄色の糸で上方から下方へ段々と色を薄くした腹巻きを着け、六衛府の武官が警護のために帯剣する太刀を差していました。

(2011年11月17日)


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