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(339)藤戸の戦い

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登場人物:源範頼、佐々木盛綱、土肥実平

 元暦元年(1184年)9月12日、源範頼が、平家追討のため、都から西国へ出発しました。

【大将軍】
源範頼

足利義兼
北条義時
斎院次官親義

【侍大将】
土肥実平
土肥遠平(実平の子)
三浦義澄
三浦義村(義澄の子)
畠山重忠
長野重清(重忠の弟)
佐原義連
和田義盛
佐々木盛綱
土屋宗遠
天野遠景
比企朝宗
比企能員
八田朝家
安西秋益
大胡実秀
中條家長
一品房章玄
土佐坊昌俊

 範頼の3万騎は、播磨(兵庫県)の室(むろ)に到着しました。

 迎え撃つ平家方は、500艘の兵船で、屋島を出発。

【大将軍】
平資盛
平有盛
平忠房

【侍大将】
越中盛嗣
上総忠光
悪七兵衛景清

 平家が備前国(岡山県)の児島に到着したと伝えられると、範頼は、同じく備前の国の西川尻の藤戸(倉敷市藤戸町、児島湾(湖)と水島灘とに通じていた狭い水道。現在は地続き)に陣を敷きました。

 源平両陣が、海を挟んで、にらみ合いました。間はわずかに25町(約550メートル)。源氏の士気は旺盛でしたが、しかし船がなく、攻撃に移ることができません。いたずらに、日数を過ごしました。

 9月25日の辰の刻、平家の血気はやる兵たちが小舟で漕ぎ出し、扇を掲げて、「源氏どもよ、ここまで来い」と徴発しました。

 源氏方の兵が「どうしてやろう」といっていたところ、近江の国の住人の佐々木盛綱が、25日の夜に入ってから、浦の男を一人連れてきて、直垂、小袖、大口袴、柄と鞘を銀の金具で作った短刀などを与えてうまくだまし、「この海に馬で渡れる場所があるか」と尋ねました。

 男は、答えました。

「浦の者たちはたくさんいるが、海に詳しい者はまれだ。知らない者のほうが多い。自分は、海をよく知っている。例えば、川の瀬のようになっている場所が、月の初めには東に、月の末には西にできる。瀬ができるときには、海は10町(約1.1キロ)ばかりで、馬などでも、たやすく渡ることができる」

 佐々木盛綱は、「それなら渡ってみよう」と、その男と2人で陣を抜け出し、裸になって、川の瀬のようになった場所を渡ってみると、確かに深い場所はありませんでした。ひざ、腰、肩が出るところもあり、深い場所は泳ぐと、浅い所に泳ぎ着きます。

 男が告げました。

「ここから南は、北よりもはるかに浅い。敵が矢先を揃えて待ち受けている所に、裸で行ってもかなわない。ここから、引き返そう」

 盛綱は「確かに」と男の申し出を受け入れて戻りました。しかし、「下郎は誰に味方するともわからないので、また、人に説かれて、海のことを教えるかもしれない。自分だけが知っていよう」と、その男を刺し殺し、首をかき切って海に捨てました。

 明けた26日の辰の刻、再び平家の血気はやる兵たちが小舟で寄せて、扇を出して、「ここまで来い」と徴発しました。

 すると、海が浅いことを知っていた佐々木盛綱が、鹿の子しぼりの直垂に、緋縅しの鎧を着て、縁が金色に飾られた鞍を置いた、模様が銭を連ねたような葦毛の馬に乗り、家の子郎党と共に7騎で、海に入り、渡り始めました。

 大将軍の源範頼は、佐々木盛綱の7騎が海へ入ったのを見て、「あれを制止せよ。留めよ」と命じました。土肥実平が馬にムチを打って追いつき、「いかに佐々木殿、もののけに憑かれて狂ったか。大将軍の許しもないのに、留まりたまえ」と諌めました。しかし、盛綱は聞く耳を持たず、海を渡り続けましたので、土肥実平も制止することができず、いっしょに海を渡りました。馬の胸や腹までの深さしかない場所もあり、深い所は、浅い場所まで馬を泳がせました。

 その様子を見た範頼が「佐々木に謀られた。海は浅いぞ。渡れ、渡れ」と命令を下し、源氏の3万騎が一斉に、海へ入りました。平家方も、それを見て船を寄せ、矢先を揃えて、さんざんに矢を放ちました。しかし、源氏の兵はものともせず、甲を深くかぶり、熊手や柄の長い鎌で敵の船を引き寄せ、わめき、叫んで戦いました。一日中、戦い続け、夜になると、平家の船は沖に逃げ、源氏は児島に上陸して、人馬を休めました。

 翌日、平家は、讃岐(香川県)の屋島へ退却していきました。源氏は血気盛んでしたが、船がないので、追撃できませんでした。「昔から馬で川を渡った兵は多かったが、馬で海を渡った例は、インド・中国はわからないが、わが国では珍しい」と、備前の児島が佐々木盛綱に与えられました。頼朝の下し文にも記されています。

(2012年2月4日)


(340)源範頼

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