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(60)平康頼の祝詞

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 平康頼と藤原成経は、毎日、参詣を重ねて、身にまとう狩衣はありませんでしたが麻の衣を身にまとい、岩田川の清流と思って沢辺の水で身を清め、高い所に上ってはここが熊野本宮の総門と眺め入りました。

 平康頼は、参詣するごとに、三所権現の前で祝詞(のりと)をあげましたが、御幣紙がないので、花を折って捧げました。祝詞の内容は以下のようなものでした。

「この年は、治承元年丁酉(ひのこのとり)、月の並びは十月と二月、日数は350日余り、吉日良辰を選んで、かけまくもかたじけない日本第一の大霊験・熊野三所権現、飛瀧大菩薩の教令を前にして、信心するのは、羽林(近衛府の中国名)藤原成経、ならびに、僧名・性照(平康頼)。一心清浄の誠を致し、三業相応の志を以て、謹んで敬い申し上げます」

「それ、熊野本宮第一殿の証誠大菩薩は、済度苦海の教主である、三身(法身報身応身)の仏なり。あるいは、民のわざわいをことごとく取り除く東方浄瑠璃医王(薬師如来)の主なり。あるいは、結宮の本地・千手観音にして南方補陀落能化の主である等覚玄門の大士である。若王子は娑婆世界の本主、観音菩薩である大士。みな、頭に頂く仏のお顔をもって、衆生の所願を聞き入れ給う」

「その霊験により、上は天子より下は万民にいたるまで、現世安穏のため、また、後生善所のため、朝には浄水を結んで煩悩の垢をすすぎ、夕には深山に向かって宝号を唱え、かなえられないことはありません」

「連なる峯が高いのを神徳の高さにたとえ、嶮々なる谷が深いのを仏の深い誓願にたとえ、雲をかきわけて登り、露を凌いで下ります。ここにご利益があることを頼み、嶮難の路を歩みます」

「権現の徳を仰がなければ、どうして、幽遠の地に足を運びましょう。従いまして、証誠権現、飛瀧大菩薩、おのおのの清浄無垢で慈愛に満ちたまなざしを並べ、鹿のような御耳を振り立てて、われらの無二の祈願を知り、志を納めたまえ」

「しかればすなわち、結宮と早玉宮の両所権現、機縁にしたがい、有縁の衆生を導き、あるいは、無縁の群類を救うため、七宝荘厳の住みかを捨てて仏が八万四千の彼方より放つ光をやわらげ、六道三界の塵と同じたまえり」

「かかるがゆえ、観音の誓いは苦界をも転じ、長寿を求めれば長寿を得るとあるように長寿の願いを叶え、供物、礼拝を捧げることは絶えず、袈裟の衣を重ね、覚道の花を捧げ、神殿の床を動かし、信心の水を清らかにし、利生の池を満たします」

「もし、祈りが届けば、心願成就となることまちがいない。仰ぎ願わくは、熊野三所権現・五所王子・四所明神を合わせた十二所権現、それぞれ利生の翼を並べ、遙かに苦海の空をかけ、左遷の憂いをいやし、ただちに帰洛の本懐を遂げさせ給え。再拝」

(2011年10月17日)


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