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兎丸愛美、若い女性たちから支持を得る理由とは?【映画『シスターフッド』インタビュー】

2019年2月22日 15時20分 参照回数:



兎丸愛美(撮影:竹内みちまろ)

 西原孝至監督が2015年から4年間撮り貯めてきたヌードモデルの兎丸愛美(うさまる・まなみ)とシンガーソングライターのBOMI(ボーミ)の生活を追ったドキュメンタリーに、新たに撮影した劇映画部分を加えて1本の作品にまとめたモノクロ映画『シスターフッド』が、2019年3月1日(金)より、アップリンク渋谷にて公開される。

 兎丸が起用されている『シスターフッド』のポスタービジュアルに「わたしの幸せは/わたしが決める」と記されているように、同作は、東京に暮らす女性たちの葛藤や“生きづらさ”に焦点を当てながらも、“自分らしさ”を肯定する作品となっている。

 『シスターフッド』公開時に26歳の兎丸は、19歳のときに生まれたままの姿を“遺影”として撮影してもらい、それをSNSにアップしたことがキッカケとなり、2014年にヌードモデルとしてデビュー。若い女性たちからの強い支持を得て、2017年4月には初の写真集『きっとぜんぶ大丈夫になる』をリリースした。

 『シスターフッド』では、兎丸は、ドキュメンタリー部分では、他人と比べながら生きてきた10代や、6人きょうだいの末っ子としての葛藤、19歳のときに生まれたままの姿で“遺影”を撮ってもらった理由、“遺影”を見て心の中に起きた変化などを赤裸々に語っている。劇映画部分では、本人役として、芝居にも挑戦。

 兎丸にインタビューを行い、子ども時代の様子や、ヌードモデルという仕事への想い、今後の抱負を話してもらった。

−完成した『シスターフッド』をご覧になった感想からお願いします。

 幸せについての映画になっていました。生きることと幸せは繋がっているのだなと感じました。私はこれまで、幸せを感じることがあまりなかったのですが、映画を観終わったときに、幸せをちょっと感じました。

−それは、どんな幸せ?

 みんな「今の自分は幸せなのかな」、「自分はこれから幸せになれるのかな」など、自分の幸せに不安を感じることがあると思います。私ももちろん、昔からそういう不安を抱いていました。でも観終わったとき、「自分が自分らしく生きていることの幸せ」をあらためて感じました。

−劇映画部分は2018年の撮影ですが、ドキュメンタリー部分の撮影はいつごろ?

 私のドキュメンタリー部分の撮影は、4年くらい前から昨年まで撮影しました。寝そべってマンガを読んでいるところは、21歳か22歳のころ。私が兎丸愛美として活動を始めたばかりのころです。

−ドキュメンタリー部分の独白で、遺影として「生まれたままの私の写真を撮って、それまでの自分をなかったことにしたかった」とあります。感情の部分なので理屈では説明できないかもしれませんが、どうして、「生まれたままの私の写真を撮」れば、「それまでの自分をなかったこと」にできると感じたのですか?

 遺影はお葬式などで飾るものじゃないですか。なので、それまでの自分を一度、殺すといいますか……。10代のころは、楽しいこともあったのですが、幼いころから死ぬことを考えていました。自分が死ぬことよりも、身近な誰かが死ぬことがすごく嫌でした。両親が死んじゃったことを考えて、布団の中で泣いてしまうような子どもでした。

−感受性の強い子どもだったようですね。

 そうですかね。私は、身近な誰かが死ぬことへの恐怖が強くなって、そうしたら、どんどん、「誰かがいなくなってしまう前に自分がいなくなったらいいのだ」と思うようになりました。子どもだったので、そういう単純な考え方しかできなくて。

 そこから、自分を苦しめる方向に生きるようになってしまいました。今思うと、わざと自分が死にたくなるような生き方をしていたのかもしれません。それで、19歳のときに、今までの自分をまっさらにしようと思って、唐突に遺影を撮ったのです。

−小学生のころ、国語の授業で作文や詩を書いて褒められたことはありますか?

 授業ではないのですが、小学生のころ、詩を書いていました。絵も描いていました。昔から、表現することが好きだったのかもしれません。でも、詩を書いたり、絵を描いたりすることを特別なことだと思っていませんでした。悩んでいることや、苦しいことなどを書いていたのですが、喜びを表現することはしなかったです。葛藤とか、……小学生に葛藤があるんですかね(笑)

−そのころの詩や絵は今、残っていますか?

 残念なことに、いなくなってしまいました。私は、小学校の低学年からパソコンが大好きで、詩や絵はネットにあげていました。今もインターネットのどこかにあるとは思いますが、どこにあるのかが分からないのです。

−19歳の時に“遺影”として撮ってもらった写真をはじめ、ネットにあげたヌード写真が反響を呼び、現在に至ります。ここまでの経緯を、ご自身はどんな感覚で振り返っていますか?

 撮った写真をSNSに載せ始めたのは、記録といいますか、アルバムといいますか、そういう気持ちでした。こんなにたくさんの方に観てもらえるなんて、ほんとうに思ってもいなかったです。私はただ、自分の好きな写真や、思っていることを発信していただけなので、びっくりですよね(笑)

−笑顔がとてもすてきですが、今のご自身は、明るい方ですか?

 表向きは明るくしています。両親や家族もこのお仕事のことを知っているので、なるべく、SNSや人目につくところでは、明るく振る舞うよう努めています。

−今のご自身にとって、ヌード写真は、目的ですか? それとも、手段?

 何なのでしょうね。もう、当たり前のことになってしまっています。昔は、「どう、ありのままの姿で生きて行けるか」ということにすごく重点を置いていました。自分にも嘘をつきたくないし、人にも嘘をつきたくないから、ありのままで生きることを表現するために裸になりました。ただ、それが定着して、今は、目的でも、手段でもなく、それが普通になっています。

−2017年4月には初の写真集『きっとぜんぶ大丈夫になる』をリリースし反響を呼びました。写真集の展示会の際に、たくさんのファンの方が詰め掛けたと聞きました。兎丸さんのファンの方は、どんな方々なのですか?

 展示会を開いたときに、写真集のサイン会をやりました。来てくれた方は、7割くらいが女性の方でした。10代後半から20代前半の方が多かったです。表向きはちゃんと明るく振舞っているけれど、でもどこか寂し気な雰囲気のひとが多いように感じました。みんな秘めた想いを自分の中に押し殺しながら生きているのだと思いました。

−サイン会では、ファンの方とどんなお話をされたのですか?

 全然普通の話ですよ。泣きながら私のことが好きだと言う女の子もいて、愛おしい気持ちになりました。

−ファンの方々は、写真集に掲載されている中では、兎丸さんのどんな写真が好きなのでしょう?

 「自分を隠して生きているのがつらいけど、泣いたり笑ったり怒ったり、感情を剥き出しにしている愛美ちゃんの写真をみると、自分の代わりに感情を表現してくれているような気持ちがして安心する」と言ってくれた子がいました。そんな風に言ってもらえて嬉しかったことを覚えています。

−ファンの方々にとって、兎丸さんは憧れの対象みたいですね。

 憧れというか、友達みたいな感じだと思います(笑)

−ファンの方は、写真を通して、兎丸さんと対話しているのかなと感じました。ご自身は、ヌード作品を通して、観てくださる方と対話しているという意識や意図はありますか?

 ぜんぜんないです(笑) ただ、やっとこの年になって、「笑っている写真をあげたら、みんなちょっとは安心してくれるかな」と考えるようになりました。私は、みんなから暗い子だと思われているので(笑) なので、笑っている写真をあげたら、「みんな、私はちゃんと元気に生きているよ!」というお手紙になるかなと思っています。

−写真を撮る仕事をしたいとおっしゃっていました。その後、仕事はされましたか?

 1回、やりました。あとはないです。撮られるお仕事ばかりです(笑) でも、私も、作品という作品をまだ発表していないので、今年か来年の頭には、個展を開催したり、写真集をリリースしたりできればと思っています。そうすれば、写真を撮る側のお仕事が広がっていくのかなと。

−今、写真は撮っていますか?

 写真は毎日、必ず撮るようにしています。身近にいる好きな人や、好きな街を撮ったりしています。ずっと撮っている女の人もいます。

−写真は、何かコンセプトのようなものは?

 コンセプトのようなものはないです。周りの写真家などに相談すると、みんな暗い写真といいますか、“暗い中にある光”を撮るのが好きなので、例えば、「リストカットをたくさんしているけど強く生きている女の子とか、泣いている女の子とか、そういう女の子を撮ったらいんじゃない」と言われます。ただ、私はそういう写真は撮りたくないのです。できれば、撮った人が数年後などに見返したとき、「ああ、このとき、幸せだったな」と思えるようなあたたかい写真が撮りたいです。今の私がそういう写真に救われているので。

−ヌード写真を撮りたい気持ちは?

 ヌードを撮りたいとあまり思わなくて。裸は人に言われてなるものではないと思います。ただ、もし、私が普段ずっと撮っている女性から「裸の写真を撮ってほしい」と言われたら、撮りたいとは思います。

−ファンの女の子で、仮にその方が19歳の社会人だったら、「ヌード写真を撮ってほしい」と相談されたら、撮りますか?

 私はけっこう、人の好き嫌いがあるので、心を預けられる人じゃないとたぶん撮れないです。撮られるときもそうなのですが、写真家が心を寄り添ってくれないとヌード写真は撮れないのです。撮りたい気持ちはありますが、けっこう、難しいかもしれません。

−「シスターフッド」では、劇映画部分に、役者としても出演されています。芝居をしているご自身をご覧になった感想をお願いします。

 確かに演じてはいるのですが、本人役なので、自分でも演じているのか、素の自分なのか、正直、分からないです。監督も「そのままでいいよ」というスタイルだったので。

− 2016年には舞台「幽霊」に出演し、短編映画『三つの朝』では第4回富士・湖畔の映画祭2018短編コンペ部門で主演俳優賞を受賞されました。兎丸さんの役者としての活動に期待される方も多いのでは。

 ヌードモデルの自分とは180度違うので、役者としての自分を観ると、不思議な気持ちになります。今、撮っている映画があるのですが、来年以降、公開されると思います。

−今後の活動の抱負をお願いします。

 私は、目標や夢は、作らないようにしています。何かを望むと、けっこうがんばってしまって、辛い人生に持っていきがちなので。昔の自分に逆戻りしてしまいそうで怖いです。でも、これからも写真はずっとやっていきたいなと思います。撮られることがなくなっても、ずっと撮り続けたいです。死ぬまで写真に人生を注ぎたいなと思います。

−「シスターフッド」の公開を楽しみにしているファンの方へメッセージを。

 「自分は自分しかいない」という当たり前のことを認めてあげることが幸せになる第1歩だと思っています。私は裸になったことで、ようやく認めてあげることができました。キッカケは人それぞれだと思いますが、この映画がそういうことに気付くキッカケになってくれたら、嬉しいなと思います。

 ***

 気さくに話をしてくれた兎丸は、笑顔がチャーミングな女性で、インタビュー中は、ときにヌードモデルとして喜怒哀楽を剥き出しにしている本人とは別人だと思えたこともあった。兎丸が今後、表現者としてどのような作品を発表し、どんな活躍をしてくれるのかに注目したい。(インタビュー・文・取材:竹内みちまろ)

【「シスターフッド」】

監督・脚本・編集:西原孝至
出演:兎丸愛美 BOMI 遠藤新菜 秋月三佳 戸塚純貴 栗林藍希 SUMIRE 岩瀬亮
製作・配給:sky-key factory
公式サイト:https://sisterhood.tokyo
公開:3月1日(金)アップリンク渋谷にて公開ほか全国順次公開
(c)2019 sky-key factory

■あらすじ

東京で暮らす私たち。
ドキュメンタリー映画監督の池田(岩瀬亮)は、フェミニズムに関するドキュメンタリーの公開に向け、取材を受ける日々を送っている。池田はある日、パートナーのユカ(秋月三佳)に、体調の悪い母親の介護をするため、彼女が暮らすカナダに移住すると告げられる。
ヌードモデルの兎丸(兎丸愛美)は、淳太(戸塚純貴)との関係について悩んでいる友人の大学生・美帆(遠藤新菜)に誘われて、池田の資料映像用のインタビュー取材に応じ、自らの家庭環境やヌードモデルになった経緯を率直に答えていく。
独立レーベルで活動を続けている歌手のBOMI(BOMI)がインタビューで語る、“幸せとは”に触発される池田。
それぞれの人間関係が交錯しながら、人生の大切な決断を下していく。

■プロフィール

兎丸愛美 Manami Usamaru
1992年生まれ。19歳のとき、裸の遺影を撮られたことをきっかけに写真の魅力にとりつかれ、2014年にヌードモデルとしてデビュー。2017年4月に初の写真集『きっとぜんぶ大丈夫になる』を玄光社より発売。同年発売のサニーデイ・サービスのシングル「クリスマス」のジャケット写真でカメラマンデビューも果たした。 2016年の舞台「幽霊」以降、女優としても活動しており、『三つの朝』で第4回富士・湖畔の映画祭2018短編コンペ部門で主演俳優賞を受賞。



→ 兎丸愛美、葛藤を告白も「兎丸愛美として生きてきて本当によかった」【映画『シスターフッド』完成披露】





兎丸愛美(撮影:竹内みちまろ)



「シスターフッド」(c)2019 sky-key factory



「シスターフッド」(c)2019 sky-key factory



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