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ミニシアター通信平家物語 > (94)平清盛と静憲法印の問答、その2

(94)平清盛と静憲法印の問答、その2

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「次に、新大納言藤原成親卿以下の近習の人々が鹿谷に寄り集まり、謀反を企てたこと。それは、まったく彼らだけの謀略ではなく、すべて、後白河法皇の了解のもとであった。改めて言うまでもないことだが、後白河法皇は何があっても平家一門を7代までお捨てになるべきではないほどなのに。しかも、清盛は齢70で、余命はいくらもない。それなのに、あわよくば平家を滅ぼそう、という決断を下された。かくなるうえは、子孫が相次いで朝家に召し使われることもないだろう」

「およそ、年老いて子に先立たれるのは、枯れ木の枝がなくなるようだ。今は、世知辛い憂き世に、心を労して何になろう。どのようにでもなれと思うようになった」

 清盛は、ときに立腹し、ときに涙を流しながら、訴えました。

 静憲法印は、恐ろしくもあり、哀れにも思えて、汗水を流しながら聞きました。

 このようなときは、どんな人でも、返事一つできないでしょう。ましてや、静憲法印は、自分も後白河法皇のお側付きの近習で、鹿谷での寄り合いにも参加していました。静憲法印は、その鹿谷での陰謀を目の前で清盛に持ち出されて、すぐにでも首謀者として召し捕らえられるのでは思うと、龍のひげをなで、虎の尾を踏む心地でした。

 しかし、静憲法印も相当なしたたか者。少しも騒がずに返答しました。

「まことに、度々のご奉公は浅くはありません。いったんのお恨みのことも、ごもっともです。しかし、官位といい、俸禄といい、御身にとってはすべて十分ではありませんか。また、清盛殿の功が絶大なことは、後白河法皇も常々心得ています。なので、近習が事を計り、後白河法皇がそれを承認していたなどというのは、それこそ謀臣の悪巧みでしょう」

「およそ、人の流言に耳を傾けて、自分の目を疑うことは、俗人の常なる弊害です。比類無き朝恩をいただいておきながら、いまさら、小人の虚言に耳を貸し、朝家を傾けようとするなど、神仏の理に照らし合わせても、現世においても、おろかなことです」

「天の心は青々として計り知れません。君の心も同じ。下として、上に逆らうことは、人臣の礼に背くこと。よくよく、ご思案されるべきでしょう。つまるところ、この趣を後白河法皇にお伝えしましょう」

 静憲法印が、そう告げて立ち上がると、居並んでいた人たちは、「なんとまあ、剛胆なことよ。清盛があれほど怒っていたのに、少しも騒がず、返事をして席を立ったことよ」といって、静憲法印をほめない人はいませんでした。

(2011年11月8日)


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