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カフカの名作が蘇った映画「審判」、男女別の見どころをヒロイン役・常石梨乃が紹介

2018年6月18日 2時20分 参照回数:

常石梨乃

常石梨乃(撮影:竹内みちまろ)

 フランツ・カフカの不条理小説「審判」を、イギリス出身のジョン・ウィリアムズ監督が現代の東京を舞台に実写化した映画「審判」が2018年6月30日から、渋谷・ユーロスペースを皮切りに全国で順次公開される。ウィリアムズ監督は実験的に実施した俳優向けのプロジェクトで「審判」をテキストにとりあげ、2015年に演劇作品として上演。その後、より原作に忠実な脚本を映画のために書き下ろした。

 銀行員の木村陽介(K・にわつとむ)が、30歳の誕生日の朝に、自宅マンションのベッドの中で目覚めたら部屋の中に2人の男がおり、逮捕状が発行されたことを告げられる。罪状は不明。木村は、不条理な状況を前に無実を主張するも、反抗はせず、徐々に蜘蛛の巣のような“システム”に絡みとられ身動きが取れなくなっていく。そんな木村の前に何人もの女たちが現れ、次々と木村を誘惑していく。

 サスペンスとブラックユーモアを織り交ぜた現代日本の風刺劇にもなっている「審判」でヒロインともいえる木村の隣人・鈴木まりを演じた女優・常石梨乃に、同作に参加した心境についてインタビューを行った。

−鈴木まりは、どんな女性?

 半年くらい前にマンションのKの隣の部屋に引っ越してきて、ごみを出すときに何度かすれ違って話をするくらいの仲なのですが、鈴木まりには「夢見る夢子ちゃん」という設定がありました。妄想癖があり、ちょっとした攻撃性もあります。また、監督と私の2人の間でのことなのですが、「鈴木まりは処女である」という設定もありました。

 Kはイケメンで、仕事ができて、鈴木まりのタイプの男性です。鈴木まりは、Kの彼女になりたいと思っていますし、「言葉には出さないけどお互いに好きだよね。私たち、いつ付き合うのだろう」と妄想を膨らませています。Kは色々なタイプの女性たちと出会うのですが、その中でも鈴木まりはピュアな部分を持っている女性でした。

−どのように役作りを?

 妄想癖を作るうえで、リアルな隣人の女性をKだと思って、壁に耳を付けて隣の部屋の物音に聞き耳を立てたり、隣の部屋のドアの物音がしたら玄関まで行って、隙間から覗いてみたりしました。

−これまで不条理を描いた作品に参加したことは?

 なかったです。私はもともと不条理好きではないです。観るという立場で不条理を選んでもこなかったですし、読んでもこなかったんです。プロジェクトに参加するにあたり、カフカの「審判」を何度も読んだのですが、最初に読んだときは、ひとつひとつを整理し、私なりに納得しながら読み進めたのでかなりの日数がかかりました。

−観客として観た場合、Kという男についてどう思う?

 アホだなと思いました(笑) Kは、自分は遊んでいるつもりなのですが、4人の女性にもてあそばれています。性欲は人間の3大欲求のひとつではありますが、コロッといくのだなと(笑) 一番手を出してはいけない女に手を出してんじゃないよ、みたいな(笑)

−映画「審判」は、男性と女性で感想が変わってくる作品?

 そう思います。(監督の)ジョンは、女の子の立場に立って撮っているのだと思います。「男って、ほんとうにバカだよな」みたいな。「自分の欲求ではなくて、もっと大切なものがあるだろ。お前、どこを見ているんだよ」ということではないでしょうか。「もっと、もっと、自分の人生の中で大事なものに向き合おうよ」とか。

−男性と女性、それぞれに向けてメッセージをお願いします。

 そうきましたか(笑)

 男性には、まさしく自分がKだと思って、Kに降りかかってくることをリアルに感じて、その場、その場で、自分ならこうするという答えを出しながら観てほしいです。

 劇中に色々なタイプの女性が出てくるのですが、実はどの女性も、Kを誘惑するという点では同じことをしているのです。なので、女性には、劇中の女性たちがどんな方法でKを誘惑するのかに注目してほしいです。観終わったら、「私だったら、Kに近づくためにこうする」という方法を教えてください(笑)

 ***

 気さくにインタビューに応えてくれた常石だが、劇中で鈴木まりが感情を吐露する場面については、監督と話し合いを重ね、英語の脚本を日本語に翻訳する作業も含めてリハーサルを何度も繰り返したそう。

 100年以上前にカフカによって執筆された「審判」が、日本を舞台として蘇った同作は、男性、女性という性別の違いだけではなく、現代日本を取り巻くシステムとそれを受け入れてしまっている私達という視点からも興味深い作品となっている。ぜひ、劇場に足を運んで、不条理の世界に身を置いてみてはいかがだろう。

(インタビュー・文・写真/竹内みちまろ)

【映画「審判」】
出演:にわ つとむ、常石 梨乃、田邉 淳一、工藤 雄作、坂東 彌十郎(特別出演) 、高橋 長英、品川 徹ほか
監督・脚本:ジョン・ウィリアムズ 
原作:フランツ・カフカ「審判」
  6月30日に渋谷・ユーロスペースにて公開ほか全国順次。
■STORY
木村陽介。銀行員。30歳の誕生日に、逮捕。罪状不明。
現代の東京。銀行員の木村が30歳の誕生日の朝、自宅マンションのベッドで目覚めると、部屋にはふたりの見知らぬ男たちが佇んでいた。彼らは「逮捕」を告げにきたと言う。でも罪状は不明。無実を主張すればするほど、蜘蛛の巣のような“システム”に絡みとられ、どんどん身動きができなくなっていく。ここから抜け出す方法はあるのか?救いを求めてあがくものの、期待はことごとく外れていく。そして、木村は出口のないこの迷路の終焉に、気づき始めるのだった―。
公式サイト:http://www.shinpan-film.com


常石梨乃

常石梨乃(撮影:竹内みちまろ)


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