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ミニシアター通信平家物語 > (54)藤原実定の厳島神社詣で

(54)藤原実定の厳島神社詣で

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 厳島神社には、ことのほか優雅な内侍たちがたくさんいました。「もともと当社には、われらが主の平家の君たちのお参りが多いのですが、あなたのような方は珍しい」と、主だった内侍が10人あまり、昼夜を問わず付き添い、さまざまにもてなしました。

 さて、内侍たちが「何を御祈願したのですか」と尋ねると、実定は、「大将の位を人に越えられて、その祈りのため」と言いました。

 藤原実定は、七日七夜、参籠し、その間、神楽が奏でられ、風俗歌や、流行り歌なども歌われた。舞楽も3回、行われた。

 さて、帰りの段になり、内侍10人あまりが船を仕立て、日帰りの路を見送りました。藤原実定は、「あまりに名残惜しいので、あと一日、二日」といい、ついに、都まで連れてきてしまいました。実定は徳大寺の屋敷に迎え入れ、さまざまにもてなし、たくさんの贈り物を持たせました。

 内侍たちは、「はるばる都まで来たのに、われらが主・平家へ参らない法があるべきか」と、西八条へ参じました。

 平清盛が内侍たちに対面し、「内侍たちはどうした。この時分に、何ごとの参列だ」と問いました。内侍たちは「徳大寺殿が厳島神社へお参りになり、船を出して日帰りの見送りをし、そこでいとまをこいましたが、実定殿が、あと一日、もう一日と言われ、都まで連れられてきました」と答えました。

 平清盛は、「実定はなんの祈願のため、厳島神社へ参詣したのだ」と尋ねると、内侍たちは、「大将の位を人に越えられて、そのための祈願とおっしゃっていました」と告げました。

 平清盛は、大きくうなずきました。「都には霊験あらたかな神社仏閣がたくさんあるのに、それらを差し置いて、浄海が崇め奉る厳島神社へはるばると参詣するとは、なんともいじらしい心構え。それほどまで、切に願うなら」と、嫡子の内大臣・平重盛が左大将を兼ねていたのを辞任させ、実定を左大将にしました。

 なんと、賢い計らいでしょう。新大納言・藤原成親も、このように謀ればよかったものを、しかたのない謀反を起こして、わが身も子孫も滅ぼしたのは、気の毒なことでした。



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