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やがて、大納言・藤原成親は、8月19日に、備前と備中の境・庭瀬の郷の有木の別所にて、ついに、処刑されました。
成親の最期の様子はいろいろにうわさされました。
はじめ、酒に毒を盛って飲ませましたが目的を達しませんでした。2丈(約6メートル)ほどのがけの下に、「菱」という菱形のとがった歯の武器を地面に植え、そこに突き落として殺したとのこと。なんとも、むごいことです。そのような例はほとんど聞かれません。
北の方は、そのことを聞くと、「ああ、変わりのない姿を今一度見て、見せもしたいと思い、今日まで出家せずにいましたが、もはや」と嘆き悲しみました。菩提寺というお寺に入って、尼になり、式どおりに成親を弔いましたが、まことにあわれなことです。
この北の方と申すお方は、山城守・敦方の娘で、後白河法皇の寵愛も深く、比類なき美人でした。藤原成親も後白河法皇から寵愛をいたく受けていたので、後白河法皇から賜ったといわれています。
成親の若君、姫君が、それぞれに折った花を手にし、仏に奉る水をくんで、父の後世を弔う様子はあわれです。このようにして時が流れ、世の変るありさまは、まさに、天人が死なんとするときに現れる五つの相という「天人五衰」に異なることはありません。
(2011年10月16日)
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