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(36)平教盛

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 そうこうしているうちに、西八条からしきりに使いがくるので、宰相・平教盛は、「今はもう、出向いてみよう。ともかくどうにかなろう」と言って出発しました。丹波少将・藤原成経も宰相の車に同乗して出かけました。保元、平治よりこのかた、平家の人々は、富み栄えるばかりで、うれえ嘆くことはありませんでした。しかし、この教盛は、しかたのない婿のために、このような嘆きをされたものです。

 一行は、西八条に近づき、まず、案内を頼みました。藤原成経は門の中へ入れてはならないとの仰せのため、適当な侍の屋敷に降ろし、教盛だけが門の中へ入りました。取り残された成経はいつのまにか侍どもに四方を囲まれて、厳しく監視されていました。とくに頼りにしていた教盛と離れた成経の心はさぞかし、たよりないものであることでしょう。

 平教盛が中門に至りましたが、清盛は出てきさえしません。しばらくして、教盛は、大夫判官源季貞(すえさだ)をもって、清盛に伝言しました。

「教盛はしかたのない者の縁者となったばかりに、返す返すも悔やまれてなりません。しかし、どうにもなりません。嫁がせている娘は妊娠中ですが、今朝からこのことの嘆きが加わり、すでに息絶えんばかりの様子です。教盛がこうしておりますので、けっして過ちは起こさせません。成経をしばらく、教盛に預けて下さい」

 源季貞がその言葉を伝えると、平清盛は、「なんと、あの宰相が、物ごとを心得ないとは」と言って、すぐに返事をしませんでした。少ししてから、清盛は言いました。

「新大納言・藤原成親卿以下の近習の人々は、当家一門を滅ぼして天下を乱そうと企てたのだぞ。少将・成経はその成親の嫡子ではないか。疎遠であろうと、縁者であろうと、そのようなことは許されてなるものか。もし、この謀反が遂げられたら、お前とて、おだやかにはしていられないものを」

 源季貞は平教盛の所へ戻り、清盛の言葉を伝えました。教盛は、いかにも落胆して言いました。

「保元の乱、平治の乱よりこのかた、教盛は、度々の合戦に、清盛の代わりに命を捨てる覚悟で矢面に立ってきました。これからも、荒風は、この教盛が、まず防ぎます。また、たとえ教盛が年老いたとしても、若き息子たちも数多くおります。一方の固めにもなりましょう。そのうえで、教盛が成経をしばらく預かりたいと申してもなお清盛殿が許されないのは、ただこの教盛に二心があるとおぼしめしなのでしょう。それ程までに心許なく思わせてしまったならば、俗世にいても何にもならない。いとまをお許し願い、出家入道して、高野山、粉河寺にも籠もり、一筋に、後世菩提に勤めましょう。浮き世の交わりは、よしなきかな。浮き世にあればこそ望みもあり、望みが叶わないときの恨みも生まれるのでしょう。そのような浮き世を捨て、仏の道に入りましょう」

(2011年10月12日)


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