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(18)天台座主・明雲

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 有名な「祇園精舎の鐘の声…」で始まる「平家物語 巻の一」は、桓武天皇を祖とする平氏が、一時は地方へ追いやられたりもしましたが、平清盛の代で栄華を極めたことが語られます。同時に、反平氏勢力が結束していく様子も紹介されました。また、加賀の国では、国司・師高が寺社領を取り上げるなどの横暴をはたらき、延暦寺の大衆が、日吉の御輿をかついで、禁裏に強訴する事件も起きました。「巻の一」の最後では、京の町を襲った大火災が語られ、「平家物語」は不穏な様相を帯びていきます。

 「巻の二」は、加賀の騒動のてんまつから、始まります。

天台座主・明雲

 天台宗総本山・延暦寺は、比叡山の山上にあり「山門」と呼ばれました。ちなみに、比叡山のふもとにあった三井寺は「寺門」と呼ばれています。その比叡山延暦寺の座主(ざす)が明雲でした。

 明雲は、村上天皇の第7皇子・具平親王から六代目の末子である大納言・久我顕通の子でした。世に並ぶ者のいない仁徳の高僧で、君臣から尊敬され、四天王寺、六勝寺(白川のほとりにあった法勝寺、尊勝寺、最勝寺、円勝寺、成勝寺、延勝寺)の別当も兼ねていました。しかし、陰陽頭・安倍泰親は「それほどの智者が明雲と名のることは、上に日月の光を並べ、下に雲を置き、ふに落ちない」と難癖をつけました。

 明雲は、仁安元年(1166年)2月20日に、天台座主になりました。同年3月15日に、中堂の本尊へ礼拝しました。中堂の宝蔵を開けると、種々の宝物の中に、白い布に包まれた、一尺四方(約30センチ四方)の箱がありました。一生男女の交わりを断った明雲座主が箱を開けてみると、伝教大師が未来の座主の名を、あらかじめ記した、一巻の黄紙文がありました。この巻物は、歴代の座主が、自分の名前が記された所まで開いて、それより先は見ないで、元に戻すため巻き直したというものです。なので、明雲も同じようにしたでしょう。

 治承元年(1177年)5月5日、天台座主・明雲大僧正が、朝廷からの法会への招請を停止されました。そのうえ、使いに来た蔵人が如意輪観音像のご本尊を回収し、朝廷から寄託された如意輪観音像を預かりながら朝家の安泰を祈る護持僧の役目を取り上げられました。検非違使の使者をつけ、このほどの内裏への強訴事件の責任を問わんがための措置でした。これは、加賀の国に明雲の領地がありましたが、西光法師とその子で流罪となった国司・師高親子が、その領地を取り上げられたことにうらみを持ち、「明雲が比叡山の大衆をけしかけ、このたびの訴訟を起こし、朝家の大事に及ぶところでした」と後白河法皇に讒言し、後白河法皇が逆鱗した結果でした。明雲は重い罪に処されるといううわさですが、明雲は後白河法皇の機嫌が悪いので、自分から座主の職印と宝蔵の鍵を返還し、座主の職を辞しました。

 同月11日、鳥羽院の第7皇子・覚快親王が天台座主になりました。覚快は、青蓮院に僧坊があった行玄大僧正の弟子でした。

 翌12日、明雲の職禄が没収されました。そのうえ、検非違使の役人2人をつけて、井戸にふたをして、火には水をかけて、水や火の使用を禁じる責めが行われるといううわさが立ちました。そのため、大衆が再び洛中に押しかけるといううわさが立ち、京中が騒ぎになりました。

 同じく18日には、太政大臣以下の公卿13人が参内し、列座して、明雲の罪状について詮議しました。末席にいた右大弁宰相で中納言の八条長方は、そのときは右大弁宰相でしたが、進み出て、「明法家の法文には死罪一等を免じて遠流にすべしとあるが、先の座主・明雲大僧正は、天台・真言の両密教を学び、仁徳があり、戒律を守り、大乗妙経(法華経)を公家に授け、天台宗の戒法・菩薩浄戒を法皇に説いた。御経の師であり、御戒の師であるので、重い罪に問われることは、神仏の照覧もはばかられる。還俗させて遠流にすることは控えるべきであろうか」と、はばかることなく提言しました。居合わせた公卿たちもみな、長方に同意しましたが、法皇の憤りが深いため、けっきょく、遠流と定められました。太政大臣・平清盛も遠流ははばかるべき旨、奏上するため院へ出向きましたが、法皇に風邪の気配があると、面会すら出来ず、不本意ながら、退出しました。

 明雲は、僧を罰するときの習いとして、僧となるときに朝廷より渡された許可証を没収され、還俗して、大納言大輔藤井の松枝という俗の世の名をつけられました。

 同21日には、遠流の地が伊豆と定められました。人々がさまざまに進言しましたが、西光親子の讒言によって、このようなことになってしまったのです。その日限りで追い出さなければならないということで、役人が白川の坊へ出向き、追い立てました。明雲は、泣く泣く坊を出発して、粟田口のほとりの一切経の別院に入りました。

 明雲は、上記したような尊い人でしたが、前世の宿業を逃れることはできず、残念なことです。

(2011年10月7日)

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