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(387)六代御前の最期

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登場人物:六代御前、平維盛北の方、源頼朝、文覚、斎藤五、斎藤六、後鳥羽天皇

 月日が流れ、六代御前は成長し、14、5歳になりました。とても見目麗しく、辺りを照らさんばかりです。北の方は六代御前を見て、「世が世なら、今頃は近衛司にてあるものを」と言いましたが、それは望むべくもないことでした。

 源頼朝は、ことあるごとに、文覚のもとへ、「それにしても預けた平維盛殿の子息・六代御前はどのような人に成長しているか。昔、頼朝が人相を持っていたように、朝敵を平らげ、父の恥を注ぐべき程の人物か」と問い合わせてきました。文覚は、「六代御前は、まったくたいへんな不覚ものです。ご安心ください」と返事をしましたが、頼朝はなお心を許さず、「謀反を起こせば、すぐに加担する御坊のことだ。しかしながら、頼朝がいる間は、誰にも邪魔はさせない。ただ、子孫の代においてはわからない」と告げたことは、恐ろしいことです。

 北の方がそのことを聞きつけ、「いかに六代御前、早く出家したまえ」と告げたので、16歳になる文治5年(1189年)の春、さしも美しい髪の毛の肩の周りにはさみを入れ、柿渋をすって染めた衣と袴、帯などを用意して、すぐに修行にでました。斎藤五、斎藤六も同じ出で立ちになり、供につきました。

 六代御前はまず高野山に登り、父平維盛の引導の師である滝口入道を尋ねました。維盛の出家の様子や、最期を聞き、名残の場所もしのびたいと、熊野へ参詣しました。濱の宮という王子の前から、維盛が渡った島を臨み、六代御前も渡りたいと思いましたが、あいにく波風が強くてかなわず、眺めているうちに、「わが父はどこに沈んだのだ」と、沖から寄せる白波に聞いたことは、いとしく思われました。六代御前は海岸の砂も父の遺骨だとなつかしく思い、涙に袖がしおれ、潮をくむ海女の衣ではありませんが、乾く所もないように見えました。汀で一夜を明かし、夜通し誦経して、指先で砂浜に仏の姿を描き、夜が明けると、僧を招いて供養し、その功徳を父の精霊に回向して、都へ帰った心の内は推し量られて哀れです。

 その頃は、後鳥羽天皇の時代でした。後鳥羽天皇は遊びにふけり、政務は、卿局(藤原範子、後鳥羽天皇の后の母で、後鳥羽天皇の乳母)がすべてを取り仕切っていました。人々の愁い、嘆きは、やむことがありませんでした。呉王は剣客を好んだので、天下に傷を被る者が絶えず、楚王が腰が細い女性を愛したので宮中に飢え死にする女性が多くいました。上の好むところに下が追従するのが世の習いなので、世の危ない様子を見て、心ある人は皆、嘆き、悲しみました。

 中でも、二の宮は、政道に励み、学問を怠りませんでした。文覚は恐ろしい聖なので、首を突っ込むべきでないことにも、首を突っ込みます。文覚は、なんとしてでもこの二の宮を皇位につけたいと思いました。頼朝が生きている間は行動に移らず、建久10年正月13日に頼朝が53歳で死ぬと、文覚はすぐに謀反を起こしました。しかし、すぐに露呈し、文覚の宿所の二条猪熊は検非違使の役人たちに囲まれ、文覚は80歳を過ぎて捕まり、しまいには、隠岐の国へ流されました。

 文覚は都を出るときに、「これ程の老境を迎えて、今日、明日を知らぬ身を、たとえ勅勘だからといって、都の片隅にも置かないで、はるばると隠岐の国まで流す毬杖(ぎっちょう、毬打)冠者こそ不届きだ。なんとしても、われが流される隠岐の国へ、連れ出してやる」と、躍り上がりながら、さんざんに悪態をつきました。

 後鳥羽天皇はあまりに毬打の玉を愛したため、文覚はそのような悪口を言ったのですが、その後、承久の乱で後鳥羽天皇が謀反を起こし、はるばると、隠岐の国へ流されたのは、宿縁の深さが思われ不思議でした。隠岐の国では、文覚の亡霊があばれて、恐ろしいことが多くありました。後鳥羽天皇の御前にも、文覚の亡霊が現れて、物語などをしたといいます。

 六代御前は、三位禅師と称して、高尾山の奥に籠もっていました。頼朝は、「六代御前は維盛の子であり、文覚の弟子なので、たとえ頭は剃っても、心までは剃るまい」と、召し捕って、亡きものにするように命じました。

 六代御前は関東へ下されました。駿河の国の住人の岡部権守泰綱に命じて、相模の国の田越川の端で、ついに切られました。

 12歳の時から、30歳を過ぎるまで生き延びたのは、ひとえに、長谷寺の観音菩薩のご利益といわれました。三位禅師が切られて後、平家の子孫は、永久に途絶えました。

(2012年2月14日)

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