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(386)六代御前の帰京

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登場人物:六代御前、文覚、北条時政、斎藤五、斎藤六、北の方

 六代御前の首が切られる寸前に、使者の僧が到着し、文覚が源頼朝から六代御前の命を乞い受けたことが伝えられました。使者に続いて、「若君、乞い受けたり」と文覚も到着し、とても晴れ晴れしく、北条時政に伝えました。

「頼朝殿は当初、『若君の父・平維盛殿は度々のいくさに大将軍として参加し、誰が申し出ても、いかにもかなわない』といわれましたので、『この文覚の頼みを退けて、どうして神仏のご加護を得ることができよう』などと様々に悪口を言いましたが、それでもなお、『だめだ』と言い、那須野に狩りに出てしまいました。文覚も狩り場まで着いていき、さんざんに申し出て、ようやく、六代御前の命を乞い受けました。どんなに文覚を遅いと思われたことでしょう」

 北条時政は答えました。

「あなたは20日と仰せられましたが、約束の日数は過ぎました。頼朝殿の許しがなかったのだと思いながら、お連れしていたのですが、それがよかった。今まさに、ここで過ちを犯すところだった」

 そう告げて、鞍を置いた乗り換えの馬に、斎藤五、斎藤六を乗せて、都へ上らせました。時政自身も遠くまで六代御前を見送り、「今少しでもお供をしたいところですが、頼朝殿に伝える大事などが多数ありますので」と、そこで別れて、鎌倉へ下りました。まことに情けのある振る舞いでした。

 そのようにして、高尾山の文覚上人が六代御前を乞い受け、夜を徹して都へ上りました。尾張の国の熱田の辺りで年を越し、文治2年(1186年)正月5日の夜に都へ入り、二条猪熊という所にあった文覚の宿所にまずは落ち着き、六代御前をしばらく休憩させました。

 夜半に大覚寺に入り門をたたきましたが、誰もおらず、音もしません。若君が飼っていた白い犬が、築地の崩れた所から走り出してきて、尾を振りました。六代御前は犬に、「母上はどこにおるのだ」と聞いたのはいじらしいです。

 斎藤五、斎藤六が大覚寺をよく知っていたので、築地を越え、門を開けて、六代御前を中に案内しました。最近に人が住んだ様子がなく、六代御前は、「人目を恥じずに命を惜しんでいたのも、母上と今一度、会いたいと思ったから。今は生きていてもどうにもならない」ともだえ、こがれました。その夜は、大覚寺で明かし、翌日、近くの人に尋ねると、「旧年中に大仏参りをして、正月は、長谷寺に籠もっているそうです」と言われました。斎藤六が急ぎ長谷寺へ行き、北の方に六代御前が帰ってきたことを告げると、北の方は取る物も取らず、急ぎ都へ戻り、大覚寺へ来ました。

 北の方は、六代御前をただ一目見て、「いかに六代御前、これは夢か、現(うつつ)か。すぐに出家したまえ」と告げました。しかし、文覚は出家させてしまうことは惜しんで、すぐに、高尾山に迎え入れ、北の方といっしょに六代御前にかすかな暮らしをさせたといいます。観音菩薩の大慈悲は、罪人も、罪のない人も、助けたまうので、古代にはこのような例もあったかもしれませんが、まことに、比類のない有りがたさです。

(2012年2月14日)


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