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ミニシアター通信平家物語 > (381)六代御前

(381)六代御前

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登場人物:北条時政、平維盛北の方、六代御前、斎藤五、斎藤六

 北条時政は、頼朝の代官として、都を守護していましたが、「平家の子孫の男子は一人も漏らさず、探し出し、差し出した者には、いうがままの褒美を与える」とふれを出しました。

 都中の者が、身分の高い者も、低い者も、ふれを知り、ほうびにあずかろうと、平家の子孫の男子を探し始めたのは、あさましいことです。

 そのようにして、何人もの者が差し出されてきました。中には、関係のない下郎の子ですが、色が白くて、見目麗しいというだけで、「これは何の中将の若君、あれはかの少将の君達」などといい、父母が嘆き悲しんでも、「あれは乳母で、これは世話をする女房」などという始末。幼い者は、水に沈め、土に埋め、少し大人びた者は、締め殺し、刺し殺されました。母の悲しみ、乳母のなげき、例えようがありません。時政とて子や孫がたくさんいますので、この状況をにがにがしく思いましたが、世に従う習いで、仕方がありません。

 中でも、平清盛の嫡孫で、平維盛の嫡子の若君「六代御前」という、年も少し高い男子がいました。身の上は平家の嫡流なので、何としても見つけ出し亡きものにしようと、手を分けて探しましたが、見つかりませんでした。

 しかし、ある女房が六波羅に来て密告しました。

「ここから西の遍照寺の奥にある、大覚寺という山寺の北の菖蒲谷という所に、維盛卿の北の方、若君、姫君が忍び暮らしています」

 時政は願ってもないことを聞いたとよろこび、言われた場所へ人を遣わして探らせました。すると、ある坊に、多数の女房と、子どもたちが、ひどく人目をはばかりながら、忍び暮らしていました。垣根のすき間からのぞき見ると、庭へ走り出た白い子犬を追って、よにも美しい少年が出てきました。乳母とおぼしき女房が、「ああ恐ろしい。人に見られてしまいます」と、すぐに家の中に引き戻しました。

 これぞ六代御前に違いないと思い、急ぎ走り帰り、時政に報告しました。

 翌日、時政は菖蒲谷を囲みました。人をして、「ここに平維盛殿の若君の六代御前がおられることを知り、源頼朝殿の代官の四郎・北条時政がお迎えに来ました。すぐに、差し出してください」と伝えました。

 北の方は前後不覚になり、何もわからなくなりました。北の方と若君、姫君に仕えていた斎藤五、斎藤六が走り回って周辺を探ると、武士が四方を囲み、逃げ道は見つかりませんでした。

 北の方は六代御前を抱いて、「ただ、われを殺してください」とわめき、叫びました。乳母の女房も、うつぶせに倒れ、声を惜しまず、泣き叫びました。日頃は声を潜めて暮らしていましたが、今は家の中の者が皆、声をそろえて、嘆き悲しんでいます。

 時政も、岩や木ではありませんので、さすがに哀れに思え、涙を抑えつつ、ゆっくりと待っていました。

 ややあってから、時政は、再び使者を出して、伝えました。

「世もいまだ静まっていません。不届き者が狼藉をはたらくかもしれませんので、時政がお迎えに来ました。別段、どうするということはありません。さあ、六代御前を渡してください」

 すると、六代御前が北の方に言いました。

「いつかは捕まる身。さあ、早く、引き渡してください。武士たちが来たら、ひどい目に遭うことにもなりかねません。例えここを出ても、しばらくしたら、北条とかいう者にいとまを請い、帰ってきます。そんなに嘆かないでください」

 そう慰める姿がいじらしいです。

(2012年2月14日)


(382)北条時政と六代御前

(383)文覚と六代御前

(384)斎藤五、斎藤六


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