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(353)壇の浦

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登場人物:梶原景時、平宗盛、平知盛、飛騨景経、上総景清、越中次郎兵衛、悪七兵衛景清、阿波民部重能

 源平両陣が、間の海30町(約3キロ)を隔てて、向き合いました。門司(もんじ)、赤間、壇の浦は、わきかえって流れ落ちる潮なので、平家の船は思うままにならず、源氏の船は潮に乗って自然と出ていきました。

 沖の潮は早いので、岸近くに船をつけて、梶原景時は行き違う敵の船に熊手をかけて引き寄せ、乗り移り、乗り移りしながら、親子・主従14、5人で、太刀を抜いて、船先で散々に戦いました。敵の首をあまた取り、その日の高名の一番に記されました。

 そうしているうちに、源平両陣が一斉にときの声をあげました。その声は、上は梵天までも響き、下は大地の守護神「堅牢地神」までも驚くほど。

 ときの声が静まると、平知盛が船の屋形に進み出ました。大音声をあげました。

「天竺、震旦、わが国でも、並びなき名将・勇士といえども、運命尽きれば力及ばず。しかし、名こそ惜しめ。東国の者どもに弱みを見せるな。何時の為に命を惜しむのだ。よく戦え、者どもよ。ただ、それのみ願うことよ」

 三郎左衛門・飛騨景経が御前に出て、「これ、承れ、侍どもよ」と下知しました。

 上総悪七兵衛景清が進み出ました。

「それ坂東武者は馬の上でこそ強そうな口をきくが、船いくさには慣れていないぞ。いうなれば、木に登った魚だ。いちいちにからめ捕って、海に投げ込んでやれ」

 越中次郎兵衛も進み出ました。

「同じ組むなら、大将軍の九郎源義経と組め。九郎は背の小さい男で、色が白い。上の前歯が出ているので、よくわかるだろう。ただし、鎧直垂をいつも替えるので、はっきりと見分けはつかないかもしれぬぞ」

 悪七兵衛景清が続けました。

「なんの、九郎の小冠者め。たとえ心が猛くとも、何ほどのことがあろう。小脇に抱えて海に投げ込んでやる」

 知盛は下知を下してのち、小舟に乗り、平宗盛の御前で告げました。

「味方の兵、今日は、頼もしく見えます。ただし、阿波民部重能だけは、心変わりしたと見えます。首をはねましょう」

 宗盛は、「あれほど平家に奉公した者なのに、はっきりとした確証もないのに、どうして首をはねることができよう。重能を呼べ」

 呼び出された重能は、少し黒味を帯びた黄赤地色の鎧直垂に、薄紅の色に染めた革で威した鎧を着て、宗盛の御前で畏まりました。

 宗盛が、「いかに、重能は、心変わりしたのか。今日は、顔色が悪く見えるぞ。四国の者どもに、よく戦えと下知せよ、臆するな」と告げると、重能は「どうして臆することがありましょう」と、立ちあがりました。知盛が、太刀の柄が砕けよとばかりに握りしめ、ああ重能めが首をはねねば、としきりに宗盛の方を見ましたが、宗盛の許しが出なかったので、どうすることもできませんでした。

(2012年2月8日)


(354)壇の浦の戦い

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