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(350)源義経の弓流し

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登場人物:源義経、伊勢義盛、平教経、越中次郎兵衛、海老次郎

 平家の船から上総悪七兵衛景清らが陸にあがってきましたが、平家の200人は歩兵が多く、源義経の騎馬武者80騎に蹴散らされ、船に逃げました。

 義経の源氏は、勝ちに乗じて、馬の下腹が浸かるほど、馬を海に入れ、攻め寄せました。平家は船の中から、熊手や鎌で、義経の甲のしころをひっかけようと、2、3度、出してきましたが、義経の侍たちかそうはさせじと太刀や長刀の先ではらいながら、戦いました。

 そうしているうちに、どうしたことか、義経が弓を海に落としました。義経は、うつ伏して、馬を打つムチで引き寄せよて、拾い上げようとします。源氏の兵たちが「弓はお捨てください、お捨てください」と止めましたが、義経はついに拾い上げ、笑って帰りました。

 老武者たちは皆、「たとえ千疋(ひき:疋は銭十文)万疋に替えることができる弓といえども、どうして、御命に代えることができましょうや」と、義経を諫めました。しかし、義経は、告げました。

「弓が惜しくて拾ったのではない。仮に義経の弓が、2人で引き、あるいは、3人で引くような、叔父・源為朝などが引いた弓ならば、わざと落として、平家に拾わせよう。張りの弱い弓を敵に拾われ、『これこそ源氏の大将軍、九郎義経の弓ぞ』などと、笑われることが悔しくて、命に代えて、拾ったのだ」

 皆の者は、義経の言葉に感じ入りました。

 そのようにして一日、戦い暮らし、夜になりました。平家の船は沖に浮かび、源氏は陸に上がって、牟礼高松(高松市東部、木田郡牟礼町と古高松)の中の野山に陣を敷きました。源氏の強者どもは、この3日間、寝ていませんでした。一昨日、摂津の国の渡辺と福島を出て、大風、大波に揺られ、まどろむこともせず、昨日は、阿波(徳島県)の勝浦に着いていくさをし、夜を徹して、大坂を越え、今日はまた、一日、戦い暮らしました。なので、人も馬も疲れ果てて、甲を枕にし、鎧の袖やえびらを枕にし、前後も知らず、寝込みました。

 しかし、その中でも、義経と伊勢義盛は寝ませんでした。義経は高い場所に登り、敵が寄せてこないかと、遠くを見ていました。伊勢義盛は低い場所に隠れ、敵が寄せてくれば、まず、馬の太い腹を射てやろうと待ち構えました。

 その夜、平家では、平教経を大将にして、夜討ちをかけようと、準備をしていました。しかし、越中次郎兵衛と海老次郎が先陣を争っているうちに、空しく、夜が明けました。もし、平家が夜襲をかけていれば、源氏は持ちこたえることはできなかったでしょう。夜襲をできなかったことは、よくよく平家の運の尽きでした。

(2012年2月6日)


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