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(343)梶原景時

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登場人物:源義経、梶原景時、伊勢義盛、佐藤嗣信、佐藤忠信、江田源三、熊井太郎、武蔵坊弁慶

 元暦2年(1185年)2月16日、源義経が陣を敷き、兵船を揃えた渡辺・福島(共に大阪市)で、出発のため、ともづなを解こうとしました。まさにその時、激しい風が吹き、船が破損しました。修理のため、その日は留まりました。

 渡辺で、東国の大名・小名が寄り集まり、「そもそも、われらは船いくさには、まだ慣れていない。どうしたものか」と評定しました。

 梶原景時が進み出て、「今度の船には、逆櫓(さかろ)をつけたいと思います」と進言しました。義経が「逆櫓とは何だ」と問うと、景時は、「馬は駆けると思えば駆けさせ、引こうと思えば引かせ、右にも、左にも、回しやすいのですが、同じような時に船ではきっと推し回すことがたいへんだと思えますので、船の先にも櫓をつけ、側面にも舵を入れ、どの方向へも回しやすいようにしたいと思います」と答えました。

 義経は告げました。

「まず、縁起でもないことよ。いくさは一歩も引かない心意気が大切だが、不利になれば、引くことは常の習い。しかし、そのような逃げ支度のために、逆櫓をつけることなど、どうしてするべきか。殿ばら(男子の敬称)の船には、逆櫓でも、逃げ櫓でも、百艘でも、千艘でもつけたまえ。義経は、ただもとのままの櫓で進む」

 梶原景時は重ねて、進言しました。

「よき大将軍というものは、駆けるべきときに駆け、引くべきときに引くもの。そのうえで、身をかけて、敵を滅ぼしてこそ、大将といえます。そのように、かたくなで融通の利かぬことを言うのは、猪武者といって、良将とはいえません」

 源義経は「猪や、鹿のことは知らぬが、いくさは、ただ正面から攻めて、それで勝ってこそ、心地よい」と一蹴しました。居並ぶ東国の大名・小名は、梶原景時を恐れて高笑いこそしませんでしたが、目鼻で知らせ合って、景時をあざけり合いました。その日、義経と景時は、刀を抜き合いそうになりましたが、さすがに、そこまではいきませんでした。

 義経は、「船が修理されて新しくなった。各々方、魚一種と酒一枡を持ち寄って、祝いたまえ」と、酒宴をするふりをして、船に兵糧米、武具を積み込み、馬を載せました。義経は「すぐに船を出せ」と命じました。しかし、船頭水夫が「今は順風ですが、いつもよりも少し強いです。沖はもっと強い風が吹いていることでしょう」と渋りました。

 義経は、「海上へ出陣しようというときに、風が強いのでとどまるなどということがあろうか。野山の末で死ぬことも、海や川で溺れることも、みな前世からの宿命だ。向かい風の中、船を出せというのなら義経に非があろう。しかし、順風なのに、いつもよりも強いからと、これほどの大事に船を出さないなど、なぜそのようなことをいうのか。早く船を出せ」と激怒し、郎党に、「出さなければ、そやつたちを射殺せ」と命じました。

 三郎・伊勢義盛、奥州の三郎兵衛・佐藤嗣信、同じく四郎兵衛・佐藤忠信、江田源三、熊井太郎、武蔵坊弁慶ら、義経旗下の一騎当千の強者たちが、「御命令ぞ。船を早く出せ。出さなければ、おのれら残らず、射殺すぞ」と、矢をつがえた弓を持ちながら、駆けまわりました。なので、船頭水夫たちも、「ここで射殺されることも同じこと。風が強ければ、沖で死ぬまでだ」とばかりに、200艘あった船の中から、5艘が出発しました。

 5艘は、まず義経の船。あとは、田代冠者信綱、後藤兵衛実基と子の基清、金子家忠と余一近範の兄弟、淀の江内忠俊(ごうないただとし)という船奉行が乗っていた船。あとは、梶原景時を恐れるか、風におじけづくかして、船を出しませんでした。

 義経は、「皆が船を出さないからといって、自分もとどまることはない。いつもなら敵も用心していよう。このような大風、大波のときに思いがけずに攻め寄せてこそ、敵を討つことができるのだ」と告げ、「どの船にも、かがり火をつけるな。火がたくさん見えれば、敵が用心してしまう。義経の船を本船として、船先のかがり火に従え」と命じ、夜を徹して海を渡り、いつもなら3日で渡るところを、三時(6時間ほど)で渡ってしまいました。

 義経は、元暦2年(1185年)2月16日の丑の刻(午前2時)に、摂津の国の渡辺、福島を出て、明けの卯の刻(午前6時ころ)には、阿波(徳島県)に着きました。

(2012年2月5日)


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