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(306)河原兄弟

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登場人物:河原太郎高直、河原次郎盛直、真名辺四郎、真名辺五郎、平知盛

 熊谷直実・直家親子と平山季重がどちらが先陣かを争って平家の城郭に押し寄せているうちに、成田五郎もやって来ました。やがて、土肥実平の7000騎が様々な旗をかざしてやってきて、雄叫びをあげながら、攻め寄せてきました。

 一の谷の戦いの大手・生田の森は、源範頼の5万騎で固めていましたが、その中に、武蔵国の住人・河原太郎高直、河原次郎盛直という兄弟がありました。

 河原太郎が弟の次郎を呼んで告げました。

「大名は自分で手を下さなくても、家来の手柄をもって自らの名誉とする。われらは自ら手を下さねば、かない難い。敵を前にして矢をひとつも射ないでいては、あまりに待ち遠しい。なので、高直は城の中に紛れ込んで、一矢、放とうと思う。さすれば、千万が一にも、生きて帰ることはないだろう。お前は残って、後の証人となれ」

 高直がそう告げると、弟の盛直は涙をはらはらと流して告げました。

「ただ2人ある兄弟が、兄を討たせて弟だけあとに残っても、どれほどの栄華を保てるでしょう。別々の場所で討たれるより、同じ場所でこそ討ち死にしたい」

 そう告げるので、兄弟2人は、下級の者を呼び寄せ、妻子の元へ、最後の有り様を言い遣わし、馬には乗らないでわら草履を履き、弓を杖にして、生田の森に設置された逆茂木を乗り越えて、平家の陣の中へ入りました。

 星明かりでは鎧の色は定かではありません。河原高直は大音声で名乗りました。

「武蔵国の住人、河原太郎私市(さきいち、私市党のこと)高直、同じき次郎盛直、生田の森の先陣ぞや」

 城の中から、言葉が返ってきました。

「ああ、東国の武士程、恐ろしい者はいない。この大勢の中に、兄弟2人きりで駆け入ってきても、なにができるというのだ。放っておけ」

 平家は相手にしませんでした。しかし、河原兄弟は屈指の弓の名手でしたので、さんざんに射てきました。それを見た平家は「今は捨て置けない。討ち取ってしまえ」と言いました。

 すると、西国に名が聞こえた強弓精兵の備中国の住人・真名辺四郎、真名辺五郎兄弟のうち、兄の四郎は一の谷の城郭に留まり、弟・五郎が生田の森にいましたが、五郎が河原兄弟を見て、矢をつがえ、弓を引き絞り、しばらく狙いを定めてから放ちました。矢は、河原太郎高直の鎧の胸板を貫通し、高直は弓にすがって立ちすくみました。弟の次郎盛直が兄に肩を貸して、生田の森の逆茂木を乗り越えようとしました。そこに、真名辺五郎の二の矢が放たれ、盛直は鎧の草摺りの端を討たれ、2人で倒れました。

 真名辺五郎は下級の者を出して、河原兄弟の首を取りました。大将軍・平知盛に河原兄弟の首を見参すると、知盛は、「なんと剛の者たちよ。これらの者こそ、一騎当千の強者どもというべきだ。惜しんでも惜しみきれない」と称えました。

(2012年1月22日)


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