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(305)一、二の懸け

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登場人物:熊谷直実、熊谷直家、平山季重、越中盛嗣、悪七兵衛景清

 熊谷直実が馬を射られ、子の直家が肘を射られ、父子は共に馬から降り立ちました。熊谷直実は鎧に刺さった矢をかなぐり捨て、城内の平家を見据え、叫びました。

「去年の冬に鎌倉を出発してからこの方、命を源頼朝殿に捧げ、屍を一の谷の汀にさらすと決意した直実だ。去る、室山と水島の2度の合戦に打ち勝って名を上げたという越中次郎兵衛盛嗣、上総五郎兵衛忠光、悪七兵衛景清はいないか。能登殿・平教経殿はいないか。高名、不覚も敵に依ってこそだ。敵に不足はないぞ。熊谷親子に出合え、組め」

 それを聞いた越中盛嗣が城内から出てきました。盛嗣は、その日好んだ出で立ちで、白地を紺色に濃く薄くむらごめに染めた模様のある直垂、赤く威した鎧、鍬の形の飾りをつけた甲、金色につくった太刀、24本指した切り斑(ふ)の矢を入れたえびらを背負い、滋藤の弓を脇に挟み、模様が銭のようになった連銭葦毛の馬に乗り、熊谷父子のほうへ進んできました。

 熊谷父子も、間を割られないようにぴったりと横並びになり、抜いた太刀を額に当て、後ろへ一歩も引かず、前へ進み出ました。

 しかし、それを見た越中盛嗣は、かなわないと思ったのでしょうか、城内へ取って返しました。

 直実は、「あれはいかに。越中次郎兵衛盛嗣と見た。どこに不足があるというのだ。押し並べて、組めや」と叫びましたが、盛嗣は、「そうもできない」と退却していきました。

 それを見た悪七兵衛景清は、「みにくい殿腹の振る舞いかな。そやつが組もうと申しておるのに。落ち合わないことがあってよいのか」と、今にも駆けだして組もうとしましたが、盛嗣が景清の鎧のそでを捕まえて、「君の御大事は、今ばかりではない。今は組むべきではない」と制止しました。景清は、力及ばず、あきらめました。

 その後、熊谷直実は、替えの馬に乗り、雄叫びを上げながら戦いました。平山季重も、熊谷父子が戦っている間に馬を休め、熊谷父子に続きました。それを見た平家は、「射取れや、射取れや」とさんざんに射てきましたが、源氏方は少数で、味方は大勢なので、平家の軍勢の中に紛れた源氏方を射ることはできませんでした。平家方から「馬を押し並べて組め」と指令が出ましたが、平家の馬は飼い葉もろくに与えられておらず、乗り回されてばかりだったり、船に乗せられてばかりでしたので、皆、彫り物の馬のように動きません。

 熊谷や平山が乗った馬は、飼い葉を散々食った大馬。鞭をひとつくれれば、平家の馬たちを蹴飛ばさんとばかりの勢い。さすがに、押し並べて組む武士は平家に1騎もいませんでした。

 平山季重はわが身に替えてもとかわいがっていた旗指しを討たれました。それで、憤ったのか、城内へ駆け込み、すぐに旗指しを討ち取った敵の首を取ってきました。熊谷父子も、敵の首をさんざん取りました。

 熊谷父子は先に寄せていましたが、平家が木戸を開かなかったので城内には入りませんでした。平山季重はあとから来ましたが、平家が木戸を開けたので城内に入りました。なので、熊谷と平山で、どちらが一番乗りで、どちらが二陣なのか、争いが起こりました。

(2012年1月22日)


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