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(291)粟津の松原

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登場人物:源義仲、今井兼平

 敵に何度も突撃を繰り返し、源義仲主従が5騎になってから、巴御前が落ちていき、太郎・手塚光盛が討たれ、手塚別当が落ちていきました。とうとう、義仲と今井兼平の2騎となりました。

 「日頃は何とも思わない鎧が、今日は重くなったぞ」と告げた義仲に、兼平は答えました。

「御身もまだ疲れていません。馬も弱っていません。どうして鎧の一重ねを、にわかに重く感じるのでしょう。それは、後ろに続く味方の勢がいないので、気が弱くなったからでしょう。兼平一騎を世の武者1000騎と思ってください。ここに射残した矢が7つ、8つありますので、しばらく、矢で防ぎます」

「あれに見えるは、粟津の松原と申します。君はあの松の中に入って、静かに自害なさってください」

 兼平はそう告げ、馬にムチを打つと、新手の武者50騎がやって来ました。兼平は、「兼平がこの敵をしばらく防ぎます。君はあの松の中へ入ってください」と繰り返し告げますが、義仲は「六条河原にてどうにもなっていたところを、お前と同じ場所で死ぬためにこそ、多くの敵に後ろを見せ、ここまで逃れてきたのだ。別々に討たれるより、いっしょに討ち死にする」と答え、馬の鼻を並べ、駆けだそうとしました。

 今井兼平は、急ぎ馬から飛び降り、義仲の馬の口に取りつき、涙を流して懇願しました。

「弓矢取る者は、日頃いかに高名を得ても、最後に不覚を取れば、末代までの恥となります。御身も疲れ、馬も弱っておりましょう。無名の者の郎党に組み落とされ、討ち取られて、『さしも日本国の鬼神と異名をとった木曽殿を、某が郎党の手にかけて、討ち取った』などと言われたら、口惜しいことでしょう。今はただ、理をまげて、あの松の中へ入らせ給え」

 義仲は「そこまで言うなら」と、ただ一騎、粟津の松原へ駆けていきました。

(2012年1月15日)


(292)源義仲の最期、今井兼平の最期

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