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(260)しずの緒環(おだまき)

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登場人物:藤原頼経、緒方惟義

 豊後の国は、藤原忠教の子で刑部卿三位・藤原頼輔の国でした。頼輔の子の頼経が代官をしていました。京から頼経のもとに使者が来て、“平家はすでに神明にも見放され、帝都を出て、波の上を漂う落人となったが、それなのに九州二島(壱岐・対馬)の者たちが迎え入れていることはけしからぬ。豊後においては、平家に従うべからず。東国北国と同心し、平家を九州から追い出せ”と告げました。頼経は、平家追討を、三郎・緒方惟義に命じました。

 この緒方惟義という者は、恐ろしき者の末えいでした。

 昔、豊後の国のある片山里に女がいました。ある人の一人娘で、夫はいませんでした。その女のもとに、ある男が、夜な夜な通っていて、年月が過ぎて女が身ごもりました。

 女の母親が怪しみ、「お前のもとに通っている男は何者だ」と問いました。女は「来るのを見るのですが、帰る姿を見たことがありません」と答えました。母親は、「それなら、朝に帰る際、しるしを繋いで、後を追ってみよ」と教えました。

 女は母親から教えられたとおり、朝帰りする男の水色の狩衣の首の上の所に、針で、しづの緒環(おだまき)というものを付けて、糸を頼りに後を追いました。糸は、豊後と日向の国の境の姥嶽という嶽の下にある大きな岩屋の中に続いていました。

 女は岩屋の入り口にたたずみ、声を掛けると、大きなうめき声がしました。女は「御姿を見たくて、ここまで来ました」と言いました。岩屋の中から「われは人の姿にあらず。あなたはわれの姿を見て、肝魂をつぶしてしまいます。身ごもった子どもは男の子だろう。弓矢・打ち物を取っては九州・二島(隠岐・対馬)に肩を並べる者はいないでしょう」と答えてきました。

 女は続けて、「たとえどのような姿でも、日ごろのよしみをどうして忘れることができましょう。お互いの姿を今一度、見たいし、見せたいのです」と告げました。「されば」と、岩屋の内から、とぐろの直径5、6尺(約80から150センチ)、頭のてっぺんから尾っぽの先まで14、5丈(約4.2から4.5メートル)もあろうかと見える大蛇が、地面をとどろかせながら出てきました。

 女は肝魂をつぶしてしまい、連れてきていた10人あまりの所従たちは、わめき叫んで逃げてしまいました。首の上の所に差したと思っていた針は大蛇ののど笛に刺さっていました。

 女は岩屋から帰ってほどなくして男子を出産しました。母方の祖父が自分が育てようと引き取り、まだ10歳にもならないうちから、背が高く、顔が長くなりました。7歳で元服させ、母方の祖父が大太夫というので、男の子は、大太と名づけられました。夏も冬もしじゅう手足にあかぎれを作っていたので、あかがり大太とも呼ばれました。

 緒方惟義は、その大太の5代目の孫。このような恐ろしき者の末えいだからでしょうか、国司の命令を院宣と偽り、九州二島に廻らし文を出したので、名だたる者どもは皆、惟義に従いました。

 くだんの大蛇は、日向の国で崇められている高知尾の明神のご神体となったといいます。

(2012年1月6日)


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