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(246)青山の沙汰

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登場人物:青山(琵琶)、平経正、藤原貞敏、廉承武、村上天皇、守覚法親王

 秘宝の琵琶「青山(せいざん)」を仁和寺の守覚法親王に託して都落ちしていった平経正は、17歳の時、奉幣の勅使として宇佐八幡宮へ下ったことがあります。経正はその時「青山」を賜り、宇佐八幡宮の神殿に向かって、秘曲を弾きました。その場に居合わせた神主たちは皆、身につけていた緑色の衣の袖を絞りました。雑人までも、普段から聞き慣れているということはありませんが、村雨の音とは違うことを理解し、まことに目出度い演奏でした。

 「青山」という琵琶は、昔、仁明天皇の御代の嘉祥3年3月(正しくは嘉祥年間ではない)、掃部寮の長官・藤原貞敏が唐へ渡った際、唐の琵琶博士の廉承武に会い、「楊真操」「流泉」「啄木」の琵琶の秘曲3曲を伝えられ、帰朝しました。その際、「玄象」「獅子丸」「青山」という3面の琵琶を相伝してきましたが、龍神が惜しんだのでしょうか、帰りの船に乗っている時に荒波が立ち、「獅子丸」を海底に沈めました。「玄象」「青山」がわが国に伝えられ、帝に献上されました。

 村上天皇の聖代の応和年間(961年−964年)に、35の夜(=15夜)の新月が白く冴え渡り、涼風がそよそよと吹く夜半、村上天皇が清涼殿で「玄上」を弾きました。

 その時、影のようなものが御前に現れ、じつに気高い声で、譜を立派に吟じました。村上天皇は琵琶を置き、「そもそも、汝は何者ぞ。どこから来たのだ」と尋ねました。影が答えました。

「私は、昔、藤原貞敏に3曲の秘曲を伝えた廉承武という者。3曲の秘曲のうち1曲を伝え残したため、魔道に落ちた。今、君の撥音が神妙に聞こえたので、参上した。願わくは、この曲を君に授け、成仏したい」

 廉承武は御前にあった「青山」を取り、弦を巻いて調子を合わせ、秘曲を村上天皇に授けました。3曲の中の「上玄石上」がその時に授けられた曲です。

 そのことがあってから後、村上天皇も臣下の者も「青山」を恐れて、手にする者はいませんでした。それで、仁和寺の御室の御所へ置かれてました。平経正が守覚法親王の最愛の稚児だったため、経正に授けられたといわれています。

 「青山」と名づけられた由来は、琵琶の撥面が紫藤の甲で、そこに夏山の峰の緑の木の間から有明の月が出ている様子が描かれているからでした。「玄象」にも劣らない、希代の名器です。

(2011年12月30日)

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