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(229)倶利伽羅落とし/倶利伽羅峠の戦い

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登場人物:源義仲、今井兼平、上総大夫判官忠綱、飛騨大夫判官景高、河内判官秀国、瀬尾兼康、倉光成澄、斎明、平維盛、平通盛


 源平両陣が相対しました。その距離、わずか3町(約300メートル)。

 しかし、源氏もそれ以上は進まず、平家も寄せてきません。ややあってから、源氏が選りすぐりの精鋭15騎を盾の前に出し、平家方に鏑矢を一斉に打ち込みました。すると、平家も15騎を出してきて、射返します。源氏が30騎を出せば、平家も30騎出し、50騎出せば50騎、100騎出せば100騎出してきました。両陣の100騎が面を合わせ、勝負せんとはやりましたが、源氏方が自制して勝負させません。源氏はこのように平家をあしらい、日暮れまで時間を稼ぎ、夜に入ってから平家の大軍を倶利伽羅が谷へ追い落とそうと計略をめぐらせていたのですが、平家はつゆとも知らず、源氏方の相手をして、日を待ち暮らしたことは、はかないことです。

 そのようにしているうちに、北南から回り込んだ搦め手の1万騎が、倶利伽羅不動明王を勧請したお堂の辺りで落ち合い、えびらの箱をたたいて、ときの声をどっとあげました。平家が背後を見上げると、源氏の白旗が雲のように揚がっています。平家方は、「この山は四方が岩壁なので、搦め手に回られることはないと思っていたが、これはどうしたことだ」と騒ぎました。

 また、平家と相対していた源義仲の1万騎も、ときの声を合わせました。砥浪山のすそ、松長の柳原、ぐみの木林に隠していた伏兵1万騎、日宮林に待機していた今井兼平の6000騎も、同じく、ときの声をあげました。平家の前後であがる4万騎のときの声は、山も、河も、いっぺんに崩すように響きました。

 辺りは次第に暗くなり、前後から敵は攻めてきます。平家の陣では、「うろたえるな。返せ、返せ」と立て直そうとする者も多くいましたが、大勢が傾いてしまった以上は取って返すことは難しく、平家の大軍は背後の倶利伽羅が谷へ、われ先にと落ちていきました。

 先を行っていた者が谷底に落ちたことが後に続く者には分かりませんので、「この谷の底にも、道があるのだろう」と、親が谷底に落ちれば子も続いて落ち、兄が落ちれば弟も落ち、主が落ちたら、一族郎党が皆落ちました。馬の上に人が落ち、人の上に馬が落ち、深い谷一つを、平家の軍勢7万が埋めてしまいました。谷底の岩と水は血に染まり、死骸が丘を作りました。倶利伽羅が谷の辺りには、今でも、矢の穴、刀の傷が残っているといわれています。

 平家の侍大将・上総大夫判官忠綱、飛騨大夫判官景高、河内判官秀国も、谷底に沈みました。また、備中の国の住人・瀬尾兼康は、うわさに聞こえる強者ですが、運が尽きたのでしょうか、加賀の国の住人の次郎・倉光成澄の手に落ち、生け捕りにされました。また、越前の国の火打ち城で返り忠(内応して本来の主の方につくこと)した平泉寺の長吏で威儀師の斎明は、生け捕りにされました。義仲は、「その法師はあまりに憎い、すぐに斬れ」と命じ、斎明は斬られました。

 大将軍の平維盛・平通盛は不思議に助かり、加賀の国に退きました。平家7万騎のうち、落ち延びた者は、わずか、2000騎。

(2011年12月28日)


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