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(159)新都・福原

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登場人物:藤原実定、通親、藤原行隆

 平安京から都が福原へ遷りました。

 ああ、旧都・平安京は、ありがたい都でした。王城守護の鎮守は四方で柔らかい光を発し、霊験殊勝の寺々は都の上下(かみしも)で甍を並べていました。人民にわずらいはなく、五畿七道の便もありました。

 しかし、福原では、車の行き来を容易くする辻ごとに切られた堀もなく、邂逅へ出向く人は小車に乗り、街の中の小道を使って通います。残された、平安京で軒を争っていた人々の住居が、日を経るごとに荒れていきます。どの家の人々も、賀茂川・桂川に身を浸し、筏を組んで浮かべ、家財道具を船に積み、福原へと運び下します。

 ただひたすらに、花の都がすたれていくことが悲しい。

 誰が書いたのか、旧都・平安京の内裏の柱に、2首の歌がありました。

  百年(ももとせ)を四かえりまでに過ぎ来にし

   愛宕の里(愛宕郡にある平安京)の荒れや果てなむ

  咲き出づる花の都を振り捨てて

   風ふく原の末ぞあやふき

 治承4年(1180年)6月9日、新都の造営を始めると、上卿の徳大寺左大将・藤原実定、土御門の宰相で中将・通親、奉行の前左少弁・藤原行隆が、たくさんの役人を引き連れて、当国和田の松原の西の野を点検しました。

 9条の地割りをしたところ、5条までは土地がありましたが、それ以降は狭くて地割りできませんでした。

 そのことを、奉行の役人が、戻り報告しました。公卿詮議では、「ならば播磨の国の印南野か、摂津の国の昆陽野(こやの)か」などの意見が出ましたが、実行される様子はありませんでした。

 旧都・平安京はすでに出てしまいました。新都・福原はいまだ、造営も始まりません。

 すべての人が根無し草の思いをしています。もとからこの地に住んでいた人たちは追い出され、行く末を憂えています。今、新しく遷ってきた人たちは、田舎のわずらわしさを嘆いています。すべて、夢の中の信じられないような出来事。

 通親は、「異国では、三条の広路を開いて、12の洞門を建てたと聞きます。それなら、5条まであるのに、どうして内裏を建てないことがあろうか。とりあえず、仮の御所である里内裏を造営しよう」と言いました。

 公卿詮議があり、平清盛が、五条大納言・邦綱へ臨時に周防の国を与え、里内裏を築造するよう手配しました。

(2011年12月2日)


(160)内裏の造営

(161)徳大寺実定と藤原多子の月見

(162)待宵の小侍従、物かはの蔵人


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