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そして、バトンは渡された/瀬尾まいこのあらすじと読書感想文(ネタバレ)

2019年11月24日 参照回数:

そして、バトンは渡されたのあらすじ(ネタバレ)

 森宮優子には3人の父親と2人の母親がいる。現在、優子は3人目の父親である森宮と一緒に暮らしている。一見すると複雑で大変そうな家庭に思われるが、優子はそれぞれの父親と母親からしっかりと愛情を注いでもらったので、周りの意見など気にせず元気に暮らしている。優子の生みの母親は優子が物心つく前に事故で亡くなり、優子は実の父親である水戸秀平に小学生まで育てられた。

 優子が小学校2年の頃、水戸が明るい性格で可愛らしい田中梨花という女性と再婚することになった。優子もすぐに梨花のことが好きになり3人で暮らすことになる。しかし、優子が小学校4年の頃、水戸がブラジルに転勤することになった。その頃、水戸と梨花は再婚時よりも関係が悪くなっており、水戸の転勤を機に離婚することになった。優子はどちらについていくのか悩んだが、日本に友達がいるということもあり、梨花に引き取られることになった。

 離婚した梨花は、優子を女手一つで育てはじめる。しかし、梨花には浪費癖があり、お金を貯めることができずに2人は細々と暮らしていた。それでも優子は幸せであったが、小学校6年の頃、周りの友達に影響されて、ピアノを習いたいと梨花にお願いをした。梨花は普段わがままなどを言わない優子の願いということもあって、卒業のお祝いとしてピアノをプレゼントすると約束をした。楽しみにしていた優子だったが、梨花から急に引っ越しをすると言われて、豪邸に連れていかれた。その家で優子は、梨花から泉ヶ原という男性を紹介される。泉ヶ原はお金持ちで梨花よりもだいぶ年上であったが、優しい男性だった。実は梨花は泉ヶ原とすでに籍を入れており、優子はこの家で暮らすことになったのだった。家には大きなピアノが置いてあった。こうして、優子に2人目の父親ができた。

 しかし、しばらくすると、梨花はお金に困らない何不自由のない生活を窮屈に感じるようになり、家に帰らないようになってしまった。そして、優子が中学を卒業するタイミングで、梨花は森宮という男性と結婚をすると報告をしてきた。梨花は泉ヶ原に別れを告げ、泉ヶ原もあっさりと了承した。選択権が与えられないまま、こうして、優子に森宮という3人目の父親ができた。しかし、2か月後、書き置きを残して突然、梨花がいなくなった。優子はこれまでの梨花を知っているので、梨花に新しく好きな人ができたのだろうと受け入れていた。森宮は梨花と離婚することになったが、自分が優子の父親になって、優子を大切に育てていくことを決める。親になることは楽しいことばかりではないかもしれないけれど、自分と優子の分、未来が二倍になると森宮は考えて、優子の親として生きる覚悟を持った。  ***

 優子は高校で浜坂という男子に指名され球技大会の実行委員をすることになった。浜坂は優子に好意を寄せていた。しかし、優子の友人の萌絵が浜坂を好きだったことがわかり、そこから優子は萌絵を中心としたクラスの女の子たちから孤立してしまうようになる。優子は自分が孤立することに対して気に止めていなかったが、事態が悪化し家庭の事情まで噂されるようになり、優子は自分から3人の父親と2人の母親がいることをクラスメイトに打ち明けた。クラスメイトは驚くが、優子にとっては特に大きなことではなかった。優子は、学校での出来事をきっかけに自分は人の間で立ち回るのが苦手であることを自覚した。しかし、それでも気にせずに穏やかに生きていけるのは、これまでの両親の育て方のおかげだなと感じた。森宮も学校での優子を心配し、家で美味しいごはんを作ってくれ、優子はどんな時も家でご飯を作ってくれる人がいることも、自分に力を与えてくれるのだと感じた。

 優子は高校の合唱祭で、中学にピアノを習っていたこともあって伴奏者に選ばた。各クラスの伴奏者が音楽の先生に指導を受ける場で、優子は早瀬という男の子の演奏の虜になってしまう。早瀬にピアノを褒められて優子は合唱祭の準備を楽しんでいた。しかし、合唱祭後、早瀬に彼女がいることが判明し、優子は人知れず失恋気分を味わうこととなった。この頃、家では優子は森宮とケンカすることが増えていた。クラスメイトに何か言われても平気なのに、森宮だと同じようにできない事を優子は悩んでいた。まだ、本音で接していないのではないかと悲しい気持ちになっていたが、それだけ優子は森宮との生活を大切にしていた。その後、優子と森宮はお互いに本音を話し、これまでよりも一層絆を深めた。優子にとって今の家族は森宮で、自分も森宮と家族でいる覚悟を持つ必要があると優子は思っていた。優子は、次に苗字が変わる時は、自分自身で決めるのだと心に決めて、森宮優子として高校の卒業式を迎えた。

 優子は高校卒業後、希望していた短大に進み、その後は山本食堂という家庭料理屋に就職した。そこで優子はイタリアから帰国したばかりだという早瀬に再会をした。再会を機に、早瀬と優子は交際を始めた。優子は早瀬と結婚することを決め、森宮の元へ挨拶に行った。しかし、森宮は早瀬との結婚に反対した。早瀬は高校卒業後、音楽の道を志していたが一度途中で別の道に行き、イタリアへピザ作りの修行に行っていた。帰国して優子と交際をした後も、道を変えハンバーグ作りの修行と言ってアメリカへ行っていた。将来が定まらない早瀬に、優子を任せるわけにはいかないと、森宮は2人の結婚を反対し続けていた。

 そこで優子は、まず他の両親たちに報告しようと考えて、連絡先を知っている泉ヶ原の元を訪れる。泉ヶ原は2人の結婚と優子との再会を喜び、そして優子が知らなかった梨花の居場所も教えてくれた。実は、梨花と泉ヶ原は、森宮と梨花が離婚した後に再婚していた。そして、梨花は現在、入院していた。優子は梨花の病院を訪れ、7年ぶりに梨花と再会を果たした。梨花は痩せていたがあの頃と同じく、よく笑っていた。優子は梨花からこれまで何があったのか話を聞くことになった。梨花は泉ヶ原と暮している時期、会社の健康診断で自分が病気であることを知った。自分が死んでしまったら優子が悲しんでしまうと考えた梨花は、自分の代わりに優子の親になってくれる人を探そうと考えた。そこで梨花が選んだのが森宮であった。優子は森宮と結婚し優子の父親になってもらい、自分は家を離れたのだった。その後、泉ヶ原は梨花の病気のことに気付いて、支えるために再婚したのだった。優子は梨花の話を聞いて、早瀬と結婚したいということを伝えた。梨花は結婚式に行くと約束してくれた。梨花に会った優子は早瀬にピアノを弾いて欲しいと望んだ。病気の身体だって、音楽は心に伝わっていくと考えていた。早瀬はもう一度音楽の道に進むことを決めた。

 梨花の病院を訪れて数日後、梨花から荷物が届けられた。血の繋がった父親である水戸から優子宛に送られた大量の手紙だった。実は、梨花と水戸が離婚してからも、水戸は手紙を送り続けていた。しかし、梨花が優子には渡さずに全て持っていたのだった。水戸の手紙を読んだ優子は、水戸はすでに再婚して別の家族があることを知り、水戸には結婚のことを言わないでおくことにした。その後、優子と早瀬は改めて森宮に2人の結婚を認めて欲しいと話しをし、森宮も認めてくれることとなった。そして結婚式の前夜。森宮は優子に、優子の父親になれたことに感謝していると言った。そして、それは優子も森宮が父親になってくれたことに感謝の言葉を伝えた。

 優子の結婚式当日、連絡をしていなかった水戸が会場に姿を見せる。実は、水戸の手紙を読んだ森宮が結婚式のお知らせをしていたのだった。突然の登場でも優子と水戸は月日を感じさせない距離感で親子の会話をしていた。森宮は水戸を式場に呼ぶにあたって、ヴァージンロードを歩く役割も水戸に変更していた。しかし、本番になってその役割はやっぱり森宮であると伝えられた。優子は、「ずっと変わらず父親でいてくれた。旅立つ場所も、戻れる場所もここだけだ」と森宮に伝えた。森宮と優子が並んでいる扉が開くと、ヴァージンロードの先に早瀬がいた。森宮は「本当に幸せなのは、誰かと共に喜びを紡いでいる時じゃない。自分の知らない大きな未来へと大きなバトンを渡す時だ。」と幸せな気持ちで包まれていた。そして、優子と森宮は、一歩を踏み出した。

そして、バトンは渡されたの読書感想文

 この作品は、親の死、再婚や離婚などで4度も苗字が変わった主人公の森宮優子が、それぞれの親と関わりながらどのように成長していくのかを描いた物語です。物語は、優子の小さい頃の話から、大人になり結婚するまでが描かれています。「親が頻繁に変わってしまう子ども」とだけ聞くと、辛い境遇で育ったのかなという先入観を持ってしまっていましたが、この作品はどこかユーモアもあり明るくて温かい気持ちで読み進めることができました。親と子、家族の血の繋がり、血の繋がり以上に愛情や一緒にいた時間の大切さを感じ、家族を大切にしたいと思わせてくれる作品です。

 特に最後の親である、森宮と優子の関係には何度も温かい気持ちなりました。森宮が優子のことをどれだけ愛しているのかが会話の中からも伝わってきて、優子自身も森宮との関係を大事にしているからこそ、踏み出せない瞬間もあり、もどかしい気持ちにもなりました。この2人を見ていて、たとえ親子でもそれぞれ1人の人間同士であり、お互いを思いやる気持ちがないと関係は繋がらないものなのかもしれないと感じました。私はこれまで、家族は家族だからこそ、どこか離れられない部分があるのかなとも思っていましたが、大切なのは「家族」や「親子」という肩書ではなく、そこに愛情が存在しているかどうかなのだと感じました。森宮だけではなく、この作品の中で出てくる、優子とそれぞれの親たちの間には、形は違えど、それぞれに深い愛情がありました。だからこそ優子は、まっすぐに育つことができたのだと思います。

 きっと世の中にはその親子の数だけ様々な親子の形があるのだと思います。そこには、血の繋がりだったり、幼少期を過ごした思い出だったり、お嫁に出す時期だったり、沢山の親子の時間があって、きっと深い愛情があるのだとこの作品を読んで感じました。喧嘩をすることも、鬱陶しく思うこともあっても、親子の時間、家族を大切にしていきたいと思えた作品でした。


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