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ツバキ文具店/小川糸のあらすじと読書感想文(ネタバレ)

2020年2月25日

ツバキ文具店のあらすじ(ネタバレ)

 雨宮鳩子は鎌倉で祖母が残した「ツバキ文具店」という小さな文具店を営んでおり、地元のお客さまからはポッポちゃんと呼ばれている。「ツバキ文具店」の先代である、ポッポちゃんの祖母は文具店を営みながらも依頼者の想いを受け取って代わりに手紙を書く「代書屋」も請け負っていた。

 両親のいないポッポちゃんは祖母に女手一つで育てられた。雨宮家は江戸時代から続く老舗の代書屋であり、その教えをポッポちゃんは小学生の頃から先代に叩き込まれた。周りの友達が遊んでいる間も、厳しく習字のお稽古を受け、先代のいう事を聞いて育ってきた。しかし、高校生の反抗期時に、そんな生活に嫌気がさしたポッポちゃんは、「私の人生をこれ以上奪わないで」と言い、家を出たのだった。

 先代の祖母が亡くなって、ポッポちゃんは久しぶりに鎌倉を訪れた。このまま帰ろうかと思ったが、先代が残した「ツバキ文具店」、そして代書屋の仕事を継ぐことになり、悩みながらも文書屋として様々な依頼を引き受けていく。

 暑い夏のある日、ポッポちゃんに離婚を報告する手紙の代書の依頼が来る。依頼者として来た夫は、結婚を支えてくれた周りの人に向けて、「離婚することになったが、幸せな結婚生活だったことを伝えたい」と言う。結婚報告の依頼は数多くあるが、離婚報告の依頼の経験はなかった。ポッポちゃんは、文章を考えるため依頼者の夫から丁寧に話を聞き、文章も依頼者の夫に確認しながら作成していった。普段は直筆で書くことが多いが、受け取り手の印象などを考えて印字にしたり、手紙に使用する便せん、封筒、切手にもこだわったりと、依頼者の気持ちが届くように最善の代書にしようと1か月ほどかけて完成させた。一仕事終えたポッポちゃんには、代筆屋としての自負のようなものが芽生え始めた。

 一時は先代である祖母に反抗して、代書屋の運命を呪っていたこともあったが、お金に困っている時には、幼き頃に叩き込まれた字書きとしての才能が、何度か自分を救ってくれていたことを思い出していた。もう伝えることはできない先代への感謝、そして先代の妹でポッポちゃんのお世話をしてくれていたスシ子おばさんと暮らした日々を思い出していた。

 秋になると仕事の依頼が多くなった。ある日、態度の大きな男爵からの依頼があった。知人から金を貸してくれと頼まれているが、問題なく手紙で断って欲しいとの依頼だった。ポッポちゃんは男爵の人柄をイメージして、相手に対して貸す気がないと伝わるように、感じた気持ちを下書きなしの一発本番で書き上げた。男爵からは成功報酬と言われていたが、ポッポちゃんはしばらく成功したかどうかの確認がとれていなかった。しかし、その後、偶然男爵と出会ったポッポちゃんは、代書が成功したと聞きお礼として鰻をおごってもらう事になった。最初は怖い印象の男爵だったが、実は先代と古くからの繋がりがあって、男爵の奥さんがポッポちゃんにお乳をあげていた事なども知る。自分は色々な人に見守られて育っていたと知り、ポッポちゃんは涙を滲ませた。

 またある日、突然店に飛び込んできた編集社に勤める男性から、取引先の作家に手紙を書いて欲しいと依頼をされる。しかし、男性は自分の気持ちを伝えたいという気持ちよりも、仕事から逃げているような態度で、ポッポちゃんは思わず男性を叱りつけ追い払ってしまう。しかし、後日男性から、自分の仕事に向かう姿勢が改まったとお礼の手紙が届く。男性の手紙は、字も文章も雑であったが、彼の気持ちが伝わる手紙だった。彼が仕事以外で初めて書いた手紙と書かれており、依頼人を叱ってしまったことを反省したポッポちゃんも救われた気持ちになった。

 ある日には、とても綺麗な女性が、自分の字が汚いので、義理の母への手紙を代書して欲しいと依頼に来た。どれだけ練習しても字を上手に書くことができないと悩み続けていた彼女だったが、その想いを聞いてポッポちゃんは、女性の代わりに気持ちのこもった手紙を書き上げた。ポッポちゃんの書いた手紙を見て、女性は涙を流して喜んだ。ポッポちゃんは、これまで字はその人を表すと思っていた。しかし、美しい心の人でも字が綺麗に書けない人もいることも知り、代書屋としての意義を改めて感じた。

 冬になり、ある男性が「母を楽にしてあげて欲しい」と依頼に来た。話を聞くと、90歳を過ぎた男性の母親は現在施設入っているが、夫から手紙が来るはずだから家に帰りたいと言ってきかないという。男性の父親はすでに亡くなっており、男性も父親は手紙を出すような人ではなかったと思って困っていた。しかし、実家を整理していると父親が昔母親にあてたラブレターが見つかり、その手紙を元に新しく手紙を書いて欲しいということだった。ポッポちゃんは手紙を見て文章を考えたが、既にいる人の文字をどのように書けばよいのか悩んでいた。しかし、気晴らしに出かけた先で突然ひらめき手紙を書き上げることができた。男性の母親は手紙を読み安心して天国へ旅立った。

 ある日ポッポちゃんの元に、片言の日本語のニョロと名乗る男性が訪れる。ニョロは日本人とアメリカ人のハーフで、ずっとイタリアに住んでいたという。ニョロの母親と先代は文通友達で、ニョロの母親は先代のお見舞いに行けなかったことを後悔していたという。先代が残した手紙をポッポちゃんに預けるとニョロは帰っていった。

 思いがけず先代の手紙を手にしたポッポちゃんは覚悟を決めて手紙を開封した。そこには、ポッポちゃんが知る先代のイメージとは全く違う、冗談を言ったり弱音を吐いたりする先代の姿があった。そして、どんな内容の手紙にも、必ずポッポちゃんが登場した。ポッポちゃんが先代に感情をぶつけ、家を出た日の手紙には涙の後が滲んでいた。手紙は先代が体調を崩してから字は乱れていった。読みながらポッポちゃんは、先代に手紙を書いたことがない、そして先代からも手紙を貰ったことがないことに気づいた。先代の最後の手紙には、実はポッポちゃんにずっと嘘をついていたことが書いてあった。代書屋は、雨宮家が代々継いできたものなんかではなく、祖母の代から始まったことだった。ポッポちゃんを傍に置いておきたい、厳しい愛情を与えることしかできなかった祖母の弱さが手紙にあふれていた。その日ポッポちゃんは、先代の最後の手紙を抱いて眠った。

 春になり、ポッポちゃんに文通友達ができる。近所に引っ越してきたQPちゃんという5歳の少女で、手紙が届いていた。QPちゃんの母親は既に亡くなっており、父親が1人で育っている。QPちゃんからの手紙は、所々鏡文字になってしまっているが、一生懸命書いているのが伝わり、ポッポちゃんはQPちゃんとの文通をいつも楽しみにしていた。

 ある日、匿名のお客様から絶縁状を書いて欲しいという依頼がくる。ポッポちゃんは、依頼者から話を聞きどのように書けば良いのか頭を悩ませる。そんな時、QPちゃんから手紙が届き、絶縁状を鏡文字で書くことをひらめき、鏡文字を練習して一晩で書き上げたのだった。

 その数日後、ポッポちゃんはQPちゃんの父親であるモリカゲさんから、食事に誘われる。彼はカフェを営んでおり、視察に訪れたいと言う。ポッポちゃんはモリカゲさんとQPちゃんの3人で楽しい時間を過ごす。ポッポちゃんは、QPちゃんとモリカゲさんの仲睦まじい姿を見ながら、自分と先代の関係を振り返っていた。そして、3人は帰りにお寺によった。先代が好きだった場所だった。QPちゃんをおんぶするモリカゲさんの姿を見て、ポッポちゃんは先代との思い出は辛いことが多かったけれど、自分をおんぶしてくれていたことを思い出し、涙をこぼしてしまう。そんなポッポちゃんの姿を見たモリカゲさんがポッポちゃんのことをおんぶして「なくしたものを追い求めるよりも、今残っているものを大事にすればいい」という言葉をもらう。

 家に帰ったポッポちゃんは、先代に向けて初めて手紙を書いた。先代が高校生の時に、プレゼントしてくれて、それから使うことを避けていた万年筆で手紙を書いた。生前に伝えられなかった言葉を手紙に書き、全身から力が抜けていくのを感じたポッポちゃんは眠りについた。夢の中で先代が隣に立っているのを感じた。



ツバキ文具店の読書感想文(ネタバレ)

 この作品は、代書屋を営む主人公のポッポちゃんと、代書を頼みに来る依頼者たちのやり取りを通して、誰かに想いを伝えることの大切さを考えさせられる作品です。「代書屋」という仕事を名前だけでイメージすると、綺麗な字で手紙を代筆してくれるだけのように感じましたが、作品を読んでいくうちに、ただの代筆ではないことがわかりました。依頼者の抱えている想いをくみ取り、相手に伝えたいという気持ちを丸ごと受け止め、伝えてくれるのが代書屋であると感じました。読んだ後に優しい気持ちになれる作品です。

 ポッポちゃんの元には、色々な依頼者が来ます。依頼の内容も様々ですが、ポッポちゃんが依頼者に向き合い、その人に適した手紙を書き上げる描写がとても素敵だと思いました。手紙を書くといっても、万年筆で書くのかボールペンで書くのかでも印象は変わります。ポッポちゃんは、インクの色、便箋の紙質、封筒の色合い、切手のデザイン、1つ1つ依頼者と届ける相手のことを考えて選んでいました。わたしも、そんなに多くはありませんが手紙を書く機会があります。しかし、ここまで考え抜いて手紙を書いたことはないなと思いました。作品を読みながら、細かい部分にも心を込めて書いた手紙は、きっと相手に伝わるのだろうなと思いました。

 また、ポッポちゃんは自分を育てた先代である祖母と、仲違いのようになっていましたが、生前の手紙が残っていたことにより、祖母の言葉や気持ちを感じる事ができました。祖母がポッポちゃんに伝えられなかった想いを知ってわたしも涙が溢れました。メールやSNSなどで気軽に連絡を取ることができる今の時代だからこそ、手紙というアナログで手間がかかるツールの味わい深さを感じることができました。メールの文字だけではきっと伝わらない、温かい感情、時には尖った感情も、直筆の文字だからこそ伝わると思います。読後に、大切な人に心を込めて手紙を書きたくなる、そんな作品です。(まる)


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