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魔眼の匣の殺人/今村昌弘のあらすじと読書感想文

2020年1月26日

魔眼の匣の殺人のあらすじ(ネタバレ)

 神紅大学1回生でミステリー愛好会会長の葉村譲は、8月に発生した集団感染テロ事件に巻き込まれた。同じくその事件に巻き込まれ、事件解決まで導いた神紅大学2回生でミステリー愛好会の会員となった剣崎比留子と、集団感染テロ事件を引き起こしたとされる「班目機関」という謎の研究機関について、何か手がかりがないかを探っていた。

 ある日、葉村は「月刊アトランティス」というオカルト雑誌の中で、集団感染テロ事件が予告されていたことを知る。雑誌によると、出版社あてに差出人不明で事件を予告した手紙が届き、その予告と類似する事件が実際に起きていると書かれてあった。さらに、そこには「M機関と自称する男たちが、数十年前に超能力実験を行うための施設を建てた」と書かれていた。葉村はこの「M機関」は「班目機関」のことではないかと推測し、比留子に相談した。話を聞いた比留子は、葉村に、一度自分で調べてみると伝えた。

 比留子は探偵を使い、「月刊アトランティス」で掲載していた研究所の場所がW県にある「好見」という地区であることを突き止めた。前回、葉村を危険な目に遭わせてしまったことを後悔していた比留子は、葉村を巻き込まないように一人で捜査に向かおうとした。しかし、そんな比留子の考えを見抜いていた葉村は、自分もついていくと言い、結局2人で好見に向かうことになった。

 好見の周辺は人気もなく、2人はバスで向かうことになった。そんな中、2人と同じ目的地を目指していると思われる1組の高校生くらいの男女も同じバスに乗り合わせた。しばらくすると、突然少女がスケッチブックを取り出し何か絵を書き出した。少女が一心不乱に書き終えた後に、突然バスは猪と衝突事故を起こした。突然の事故に驚いた葉村だったが、少女のスケッチブックが一瞬目に入った。スケッチブックには、血を流す猪らしき獣とバスが描かれており、今の状況が描かれているようだった。

 どうやら、彼らも同じ好見に用があるようだった。少女は十色真理絵、少年は茎沢忍といい、2人は同じ高校の先輩後輩であった。バスを降りた4人はそのまま進んでいき、無事、好見に到着したが、住人の姿がどこにも見当たらなかった。そこに、ツーリングの途中でガソリンが切れてしまって困っていた王寺貴士という30代前後の男性、好見の元住民で父親の墓参りに来た朱鷺野秋子という20代半ばの女性、車のトラブルで困っていた大学教授である師々田巌雄という50代前後の男性、師々田の息子である小学生の純が現れ、彼らも住人を探していると言った。

 一同が途方に暮れていると、元住人の朱鷺野が山を越えた底無し川の奥を進むと、「サキミ」と呼ばれる人が住んでいるはずだと言った。村の人とは離れた「真雁」と呼ばれる里でひっそりと暮らしており、村人たちはその場所を「魔眼の匣」と呼んでいた。一同は朱鷺野の案内で底無し川にかかった橋を渡り、サキミの住んでいる場所を目指した。目的地に着くと、大きなコンクリートの建物があった。中から、黒ワンピ―スに身を包んだ神服泰子というサキミの世話役の女性が現れた。一同が困っていることを聞くと建物の中に案内してくれた。

 中にはオカルト雑誌「月刊アトランティス」の記者である臼井頼太が先客としており、ちょうどサキミと面会するところだったので、葉村たちも面会を申し出た。葉村たちがサキミと面会すると、サキミから「この場所で男女が2人ずつ、4人死ぬ」という予言を告げられた。さらにサキミが指定した日時はちょうど翌日からの2日間を指しており、好見の住人がいない理由はサキミの予言を聞きこの場所から離れたからであった。サキミとの面談が終わると、来るときに通ってきた橋が住人の手によって燃やされており、葉村たち10人とサキミは魔眼の匣に閉じ込められてしまった。

 神服の案内で、魔眼の匣の中にある客室で泊まることになった。翌日、燃やされた橋以外に脱出するルートがないか手分けして探すことになった。そのとき、突然、十色が一心不乱に絵を書き始めた。その絵は茶色で塗り潰されており、木材の塊のように見える絵であった。するとその直後、突然、地震が起き、土砂崩れによって臼井がつぶされて死んでしまった。サキミの予言通り、1人目の犠牲者が出てしまった。比留子は、また事件に巻き込まれたことを嘆き、葉村を危険な目に遭わせてしまっていることを後悔した。

 その後、自室で過ごしていた葉村は、突然、眠気に襲われて倒れてしまう。また、古いストーブの影響で部屋に一酸化炭素がたまり、命が危ないところを十色の予知能力によって助かる。比留子と葉村は十色の能力について話を聞くことになる。十色の亡くなった祖父は過去に班目機関で超能力研究をしていた。サキミは研究対象として研究機関で過ごしており、そこでサキミは祖父と親しくなった。十色は、自分はサキミの孫ではないかと思っていた。自分の予知能力はサキミからの遺伝だと考えており、望んでもいない自分の予知能力に悩んでいた十色は、サキミに会って話を聞くために好見を訪れたのだった。

 一同が集って食堂で夕食を食べていると、十色はまた突然、一心不乱に絵を描き始めた。誰かが倒れておりそのそばに花のようなものが落ちている絵であった。時間がたっても誰にも異変が訪れなかったが、夕食の席に唯一いないサキミを心配し、一同はサキミの部屋を見に行った。すると、サキミの部屋の前に花が落ちており、部屋の中には毒を飲まされて倒れているサキミの姿があった。早い発見によって一命をとりとめたサキミだったが、現場の状況から見て、サキミの部屋の前の花は、犯人が十色の絵を見てから予言通りにするために用意したものだと判断された。しかし、サキミの部屋に入って毒をしかけて、部屋の前に花を置くという、両者の犯行が可能な者はいなかった。予言の力を信じていない師々田は疑いの目を、絵を描き上げた十色に向け、十色は一人で自室に軟禁されることになった。

 その夜は、部屋で過ごす十色以外、一同に集まり互いを監視するように食堂で時間を過ごした。トイレで席を外す人物がいれば時間をメモしておくようにした。数時間経った深夜、トイレへと向かった神服が、熊用の銃が消えていることに気付き皆に報告した。誰も心当たりのある人がいなかったため、持ち出したのは十色ではないかと十色の部屋へ向かうと、荒らされた部屋の中に銃で撃たれ死んでいる十色の姿があった。十色が2人目の犠牲者となり、十色を慕っていた茎沢は十色を1人にしたせいだと怒り、魔眼の匣から出て行ってしまった。夜中に山道を探すのは危険ということで茎沢の捜索は翌日に持ち越された。

 残っている人物で、各人物が席を外した時間を整理した。また朱鷺野の証言により、銃がしまわれていたロッカーは朱鷺野がトイレに立った時には壊されていなかったということが判明した。銃をロッカーから持ち去り、十色を殺害して食堂に戻るには10分以上かかると予想されたが、朱鷺野より後に10分以上席を外した人はいなかった。また、十色を殺す動機がないという話になったが、サキミの予言が動機になりうる可能性が出てきた。犯人は、自分が死ぬ前に予言通り男女2人ずつ死ねば、自分の命は保証されると考えた。つまり、十色を殺した犯人は同性である女性ではないかという推理がされた。その後は、十色を軟禁していたことが事件につながったこともあり各自部屋に戻ることになった。比留子は自分と同じように、生まれながらの運命を背負い、立ち向かおうともがいていた十色を想って胸を痛めていた。

 予言2日目の朝、比留子の姿が消えた。一同が外を探していると雪道に落ちている比留子のストールを見つけた。そして、崖に向かって一筋の足跡が続いていた。葉村は足跡を真っ先にたどっていき、追い付いた面々は、岸壁に片方だけ転がっている比留子のスニーカーを見つけた。比留子は十色の死のショックからくる自殺とされ、予言の犠牲者は残り男性1人と考えられた。

 その後、葉村が自室に戻るとそこには比留子が潜んでいた。比留子はこれ以上の犠牲を食い止め犯人を見つけるため、葉村と協力して自分が死んだと見せかけたのだった。十色殺害の犯人を見つけるため、葉村は荒らされた十色の部屋を調べて、写真を撮って比留子に共有した。また、意識が戻ったサキミとも面会し、毒がどこから盛られたのかの手がかりを探しだした。葉村がサキミの部屋を捜索したところ、サキミの部屋の奥から粉末の毒が発見された。

 午後3時頃、突然、女性の悲鳴が聞こえた。葉村が部屋から出ると廊下は真っ暗で、暗闇の中、長い槍のようなものを持った白装束の人物が地下に降りていくのが見えた。葉村が後を追ってみると地下階へ続く廊下に白装束が脱ぎ捨てられていたが、濡れた靴のような足跡が地下階の部屋を使っていた朱鷺野の部屋まで続いていた。同じく地下階の部屋を使用していた王寺と師々田、そして1階の部屋から降りてきた神服と合流して、朱鷺野の部屋に行くと後頭部から血を流して倒れている朱鷺野の姿があった。

 疑われたのは同じ階にいた王寺と師々田であったが、葉村はすぐに追いかけていたこともり、白装束の人影が階段を下りてからたった数秒で朱鷺野を殺し、自室に戻るのは不可能とされた。比留子を自殺だと思っている面々は、すでに女性の犠牲者は2人出ているのに、なぜ朱鷺野が殺されたのか理解できずにいた。比留子を慕っていた師々田の息子・純は、比留子がどこかで生きているのだと考え、一人で外に探しにいってしまう。大人たちが慌てて後を追い山道に入ると、そこには熊に襲われたとされる茎沢の遺体があった。身を隠していた比留子は皆の前に姿を現し、嘘をついていたことを詫びた。これでサキミの「男女が2人ずつ、4人死ぬ」という予言が実現されてしまった。

 恐々とする一同をよそに、比留子は再度、現場をくまなく捜査し、全員を食堂に集めた。葉村には比留子が真犯人へとたどり着いたように見えたが、「これは解決ではない。始めるのは私と犯人の死闘だ」と葉村に告げた。そして謎を解き始めた。

 比留子は謎解きに使用するという理由で、食堂に包丁やナイフなどの武器を揃えた。そして、今回の事件は普通の殺人事件とは違い、サキミや十色の予知能力を信じすぎる気持ちや予言を恐れる気持ちから引き起ったものだと告げた。また、臼井と茎沢の事件は自然現象によるものだと言い、サキミ毒殺未遂、十色殺し、朱鷺野殺しの3点について謎解きを始めた。

 第一のサキミ毒殺未遂事件では、葉村の調べによってなぜか毒がサキミの部屋から見つかった。実は、毒を飲んだのはサキミ本人であった。サキミは十色という孫を犠牲者にしないために死ぬことを選んだ。しかし、事情があって十色に自分が祖母であることを隠しておきたかったサキミは、他殺に見せるために毒を自室から処分しようとした。しかし部屋のドアの前には既に花が置かれており、仕方なく自室の奥に隠したのだった。部屋の前に花を置いたのは、サキミではなく真犯人であった。十色の予言の力を信じていた犯人は、予言の絵の状態を他人に押し付ければ、自分の命は助かるのではと考えたのだった。毒殺と花を置いた人物は別々にいたのだった。

 第二の十色殺しでヒントになったのは、十色の部屋にかけられていた時計であった。十色の部屋は荒らされていたが、それは犯人が隠したいものがある証拠であった。実は犯人が十色を撃った時、銃の弾が時計に当たり「犯行時刻の痕跡」が残ってしまったのだった。その時間にアリバイのないものが犯人ということになり、比留子は犯人を特定することができた。そして、犯人が特定できたことによって、朱鷺野が嘘の証言をしていたことも証明される。犯人と朱鷺野は実は共犯者であった。サキミの予言を信じている犯人と朱鷺野にとって、自分が確実に助かるための方法は同性の人が死ぬことであった。しかし、同性であることは殺す動機ができてします。そのため2人は、交換殺人を計画しそれぞれの異性を殺す計画を立てたのだった。

 第三の事件の原因は、実は比留子が偽装自殺をしたことによって起きていた。朱鷺野にとって殺人する意味がなくなり、裏切りが起きたことが動機であった。実は犯人は朱鷺野を殺す気はなく、気絶して部屋に放置していただけであった。予言の力を信じていた犯人は女性3人目を殺すわけにはいかなかった。時間がたったあとに白装束で騒ぎを起こして、朱鷺野を発見させる狙いだったが、朱鷺野は時間をかけて死んでしまったのだった。

 比留子は犯人をあえて追い詰めるように謎解きをした。追い詰められた犯人は比留子が用意したナイフを手に取って比留子に突きつけた。しかし、比留子は「犯人ならば殺せない」ということをわかっていた。ここで比留子が死ぬことは予言を変えてしまうことになる。予言を恐れて、殺人まで犯した犯人が、5人目を殺せるわけがないと比留子は勝負に出たのだった。犯人は比留子の言葉を聞き崩れおちた。

 そして比留子にはもう一つの謎を解く必要があった。かつて班目機関で研究対象にされていたというサキミに関する謎であった。比留子はサキミに会い、彼女が隠していた嘘や罪を全て解き明かし、魔眼の匣を去ったのだった。


魔眼の匣の殺人の読書感想文

 この作品は前作の「屍人荘の殺人」のシリーズ続編で、前作で主人公だった葉村が、引き続き主人公として話が進んでいきます。前作の中で謎に包まれていた研究機関を探っていくという導入部分から、今回も謎が派生して事件に巻き込まれていくストーリーになっているので、前作を読んでいる方がより楽しめる作品だと思います。前作「屍人荘の殺人」を読んだ時に、私は今まで出会ったことのないタイプのミステリ作品だと感じ、そのトリックや設定の斬新さに、本当に大きな驚きがあったのですが、今回もまた今までのミステリとは違った角度から攻めており、筆者の想像力に脱帽しました。

 今作では、ミステリの常套であるクローズド・サークルに加えて、犯人を含む登場人物の心理を操る仕組みとして、「予知能力」という超能力が出てきます。ミステリといえば、犯人側も用意周到に犯行を勧め、探偵はそのトリックを理論的に解き、犯人を追い詰めていく、というイメージがあります。しかし、今回は非現実的で非科学的な、「予知能力」というものが存在するという前提で話が進んでいくのが、これまで読んだことのないミステリ作品で、非常に新鮮だと感じました。しかも、物語の中でただ超能力が出てくるのではなく、「予知能力」の特性を生かした事件設定が仕込まれており、見事という他ありませんでした。

 また、斬新な設定だから面白いのではなく、やはり今回も登場人物の魅力が大きいと思いました。前回から変わらない主人公・葉村、そして相棒のような存在である比留子、2人の関係性もそれぞれのキャラクターも、前回よりもより濃くなっているように感じました。お互いに相棒として、大切にしているがゆえに、事件の中で交錯する2人の想いなども、今回は注目するポイントでした。

 最後に大きな事件が解決したと思いきや、最後の最後まで驚きが残っています。散りばめられた伏線をラスト20ページで、嵐のように回収していきます。またミステリに新しい可能性を広げてくれる作品だと思います。さらなる続編も期待したい作品です。


→ 屍人荘の殺人/今村昌弘のあらすじと読書感想文


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