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宝島/真藤順丈のあらすじと読書感想文

2020年1月26日

宝島のあらすじ

 1950年代初頭の沖縄のコザで生きる、19歳のグスクは米軍基地に忍び込み、略奪した物品を住民に分け与える「戦果アギャー」と呼ばれる存在であった。親友で20歳のオンちゃん、オンちゃんの弟で17歳のレイなどといった、沖縄に住む仲間たちと一緒に、米軍基地から生活に必要な資材を盗んできて、住民に分け与えるという冒険的な生活をして日々生きていた。グスクたちが米軍基地から奪うのは食料、医療品だけではなく、建築資材などもあり、その資材で子どもたちが通う小学校を建てていたほど、沖縄に生きる人にとっては「戦果アギャー」は必要とされた存在だった。特にグスクの親友で、「戦果アギャー」のリーダーであるオンちゃんは、仲間たちからも住民からも英雄視されており、みんなの憧れの存在だった。グスクが密かに想いを寄せているヤマコという女の子は、オンちゃんの恋人でオンちゃんとヤマコは思い合っていた。

 ある日オンちゃんは、嘉手納基地に盗みに入る計画を立てた。嘉手納基地の潜入は厳しいと言われており、心配したヤマコもオンちゃんを止めたが、オンちゃんは嘉手納基地への潜入を譲らなかった。グスクも心配ではあったが、オンちゃんがいるなら大丈夫だという気持ちがあり潜入の日を迎えた。ヤマコに見送られ必ず帰ると約束して出発したが、その日の潜入はなぜか普段と異質だった。オンちゃんは常に生還を第一に考えており、潜入の痕跡を残さないように細心の注意を払っていた。しかし、今回は侵入したことがすぐさま相手にばれていた。そのため、グスクたちは米軍に包囲されて追われることになった。

 途中何人もの仲間が狙撃され、米兵に捕まっていく中、グスクは仲間たちと必死に逃げた。オンちゃんの背中を追っていたはずのグスクは、いつの間にかオンちゃんの声が聞こえない場所まで来ていた。もうろうとする意識の中で、沖縄では神聖な場所と呼ばれている「ウタキ」に似た場所を米軍基地の中で見た。「ウタキ」は決して基地の中にあるはずもないものだった。そしてグスクはそこで不思議な音を聞いた。それは動物の鳴き声とも言えない、かすかな人の泣き声のようなものだった。

 グスクは発砲音で我に返った。米兵に追われながら、なんとか走り続けたグスクは、海岸まで走り、そのまま海に飛び込んで意識を失った。目覚めたグスクは奇跡的に一命をとりとめた。レイは無事に生還していたが、しかし、オンちゃんの姿が見つかっていなかった。米軍基地で捕まった仲間は全員投獄されていたはずだが、そこにもオンちゃんの姿はなく、そのままオンちゃんは行方不明となってしまった。

 グスクたちはコザの町、基地の周辺、警察署、病院とオンちゃんを探しまわった。しかし、オンちゃんの消息は不明のまま。レイは真っ先に基地に乗り込み刑務所に入れられた。グスクとヤマコはオンちゃんの情報の聞き込みを続け、オンちゃんが密貿易団クブラに脅されていた情報を得る。クブラのことを知っているという「謝花ジョー」という男が刑務所にいるという情報を得た。グスクはジョーに会うために自首して刑務所に入ることになった。刑務所の中では、米軍統治に反対し沖縄の英雄と呼ばれる瀬長亀次郎などがおり、若者は米軍への反発を強めていた。グスクはやっとのことでジョーを探し出したが、その時ジョーは会話もできないほどの瀕死状態だった。グスクは必死に質問し、オンちゃんがあの夜、基地を脱出したということを確認したが、その後どうなったのかは聞き出すことができなかった。ジョーは最後、オンちゃんが「『予定にない戦果』を持ち帰った」と言い残し、息を引き取った。

 オンちゃんが持ち帰ったという『予定にない戦果』とは何のことなのかわからないまま、オンちゃんの行方もわからないまま、グスク、レイ、ヤマコはそれぞれ成長していった。グスクは刑務所から出た後、警察官となった。沖縄では、米兵が婦女暴行殺害事件などの問題を起こし、島民の傷は深まる一方だった。米軍政府の中でも、米軍犯罪抑止や日米の今後の関係を良好にしようと考えている者もおり、グスクはその米軍の諜報部員からスパイ協力を要請された。島民を裏切るような行為に抵抗感もあったが、オンちゃんの行方を掴む事にもつながるかもしれないと考え、グスクは協力することになった。

 ヤマコは働きながら教員免許を取り教師になった。新米教師として必死にもがきながら、街にいる教育を受けられない孤児に読み聞かせをしていた。そこでヤマコはウタという少年に出会った。ウタは言葉を知らず喋ることもできない少年だったが、毎日ヤマコの読み聞かせの場に現れていた。ウタは、米兵と島民女性との間に生まれた混血の子だった。ヤマコは孤児たちに教育をすることで教師としても自信をつけて行った。しかし、ある日突然米軍の軍事機が小学校に墜落し炎上する事故が起きた。授業中だったヤマコは必死に避難したが、生徒の中からも死者や負傷者が出る大事件となった。それからヤマコは米軍基地を沖縄から撤退させる本土復帰運動に積極的に参加するようになった。ヤマコはオンちゃんがもういないことを受け入れ、島に住む子どものために行動するようになった。

 レイは未だ争いの絶えない生活をしていた。戦後の沖縄では暴力組織は基地周辺の利権をもつコザ派と、最大都市の那覇派で激しく対立しており、レイは争いの波に巻き込まれていた。コザで育ったレイはコザ派に属していたが、那覇派のリーダーである又吉世善と親しく付き合うようにもなり、情報を集めてオンちゃんの行方を追っていた。また、そのころレイの周りに混血の孤児が現れるようになった。最初は口がきけない子どもで傍にいるだけであったが、いつしかウタと名乗り話せるようになって、レイの後をついて来るようになった。レイはしばらくして、ウタがヤマコの教え子だと知る。コザ派と那覇派の攻防はさらに強まり、又吉は島から身を隠す必要があり、レイは又吉に同行し島を出ることになった。又吉からオンちゃんに関わる情報を得ていたレイは、「兄貴を見つけて帰ってくる」と、ヤマコへの伝言をウタに託した。

 グスクは身に覚えのない容疑をかけられて、島で暗躍している本土の日本人・ダニー岸から拷問を受ける。その容疑とはキャラウェイ高等弁務官の暗殺であった。又吉と沖縄から別の島に逃げてきたレイは、又吉たちがキャラウェイ高等弁務官の暗殺を企てていることを知る。また、その島はかつてオンちゃんを脅していた密貿易団クブラが中継基地として使用していた島だと知る。そして島に住む住人から、レイに似た風貌の男性が過去に島に来たことを聞く。レイはオンちゃんについて話を聞き、悲しい事実を知ってしまう。オンちゃんは数年前にこの島に売られてきて、そして命を落としたという。島の住人が持つ遺品の中にオンちゃんの首飾りがあった。

 レイは沖縄に戻るとすぐにヤマコの元に事実を伝えに向かった。しかし、レイがヤマコの家にいることによって、ヤマコの知人が襲われて怪我をしてしまった。レイに罵声を浴びせるヤマコを見て、レイはヤマコを無理やり抱いてしまった。オンちゃんの恋人であるヤマコにレイはずっと想いを寄せていた。自分はオンちゃんを探していたのではなくて、オンちゃんの死の事実を、待っていたのかもしれないと感じた。レイはそのまま姿を消した。拷問から解放されたグスクはヤマコの様子からずっと探してきた親友の死を知った。

 キャラウェイ高等弁務官の暗殺計画は未遂に終わった。那覇派の人間の多くは検挙されたが、レイは又吉たちの計画には載らずにその後、行方不明になっていた。沖縄では本土復帰を目前にストライキの勢いが増し、米軍施設の焼き討ちを行うコザ暴動と呼ばれる暴動が起きた。グスクは暴動の中で、数年ぶりにレイの姿を見ることになった。本土復帰が決まっている中でも、沖縄の民は変わらず米軍から自分たちの居場所や生活を奪い返そうと必死であり、グスクは今でも我々は戦果アギャーなのだと感じた。レイは前線で基地を襲撃した。しかし、自らついて来てしまったウタが米軍に撃たれて死んでしまった。

 ヤマコは帰ってきたレイとグスクを連れて、ウタが通っていた洞窟に案内する。洞窟には1人の青年の遺骨があった。ヤマコはウタの秘密とオンちゃんが消えた日の真実にたどり着いたのだった。当時の沖縄では米兵から暴動を受け、望まれない子を宿す女性が多かった。その運命にあった1人の女は、我が子をなんとか産み落とそうと、嘉手納基地に入り込みそこで子を産んだ。しかし、力尽きた彼女はそこで命を落としてしまった。彼女が子を産んだ日、オンちゃんやグスクやレイが基地に忍び込んだ日であった。

 オンちゃんは逃げる途中で赤子を見つけ、へその緒を切り基地の外に連れ出した。米兵も赤子を撃つわけにはいかず、オンちゃんを殺すことはしなかったが、そのまま米兵に身柄を捕まえられ離れた島に連れていかれた。オンちゃんは機会を見て、海に逃げ込んだ。島の人には死んだと思われていたが、ウタを抱えて海を渡り洞窟にたどり着いたのだった。そして人目を忍んでウタを育てていた。オンちゃんが手にした『予定にない戦果』とはウタの命の事だったのだった。



宝島の読書感想文

 この作品は、1950年初頭から沖縄の本土復帰が決まるまでの約20年間を、戦果アギャーと呼ばれる若い人物たちを中心に歴史をたどっていく作品です。ページ数も多く、読み応えがあり、内容的にも重厚な作品ですが、文章表現は至って明るく、まさに歴史を駆け抜けていったような爽快感を感じる作品となっています。

 また、フィクションの小説ですが、実際に当時沖縄であった事件や、実在した人物の名前も出ており、史実とフィクションが巧みに混在しています。私はその当時生きていたわけではないので、実際の事件のリアルタイムの空気感などは知らないのですが、この作品を読んでいると島に流れる空気や沖縄の人が感じていたであろう感情が、生々しく伝わってくるように感じました。作者の綿密な取材によるものだと感じます。

 この作品の中で、きっかけとなる事件の発端には戦果アギャーという存在がいます。物語の中心にいるグスク、レイ、ヤマコ、そして3人が英雄と慕っていたオンちゃん。米軍の統治下で貧しい生活を余儀なくされる人々は、米軍基地に忍び込んで、そこから生活に必要な物資を盗んでおり、その人々を戦果アギャーと呼んでいました。生きるためには仕方のないことのように感じましたし、どこか自分たちの生活を小さくさせている米軍への報復のようにも思える行動でした。危険を冒しても戦果アギャーとして生きていた彼らは、「大切な人と生きること」が何よりも重要だったのだと感じ、戦後のピリピリした空気感が痛いほど伝わりました。彼らが必死で生き抜く姿を見て、現代にある善や悪という意識はそこが平和であるからこそ生まれるのかもしれないと思いました。

 また、オンちゃんが失踪してからは、グスク、レイ、ヤマコの3人は、傷を負いながらそれぞれの道を歩み始めています。そのことによって、思考の偏った視点ではなく、別方向の視点から、起きた事件や出来事について読者が考えることができるのも、作品の魅力だと感じました。忌まわしい事件や、心痛める事件も、当事者は1人ではなくて、その場に生きている人々がそれぞれの考えで必死にもがいている。実際に過去に日本でどんなことが起きていたのか、この作品に出会えたおかげで知り、考えるきっかけになりました。


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