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フーガはユーガ/伊坂幸太郎のあらすじと読書感想文(ネタバレ)

2019年6月8日 16時10分 参照回数:

フーガはユーガのあらすじ(ネタバレ)

 常盤優我と常盤風我は双子の兄弟で、幼い頃からいつも2人は一緒だった。2時間差で生まれた兄の優我と弟の風我には、2人だけの不思議な能力があった。それは1年に1度、2人の誕生日にだけ2時間おきに入れ替わるという能力だった。

 優我は高杉という男にファミレスに呼び出され、トイレの個室を盗撮した映像を見せられる。映像に映るのは優我の姿で、便座の上に座っていた優我が、立ち上がる動作もなく、一瞬で立ち、しかも立ち上がった優我の顔には絆創膏がついているという不思議な映像であった。

 高杉はこの映像を見て何等かの細工を疑ったが、何度調べても加工された様子がなく、動画に映っていた優我に話を聞きに来たのだった。高杉は都内でテレビのディレクターをしており、ネタになりそうな事を探していた。高杉が、優我にこの動画を見せたところ、「言っておきますけど、僕がしゃべることには嘘や省略がたくさんあります」という前置きをして、優我は弟の風我と2人の能力について語りはじめた。

 優我と風我がその能力を初めて使ったのは五歳の頃。2人は父親から毎日暴力を受けていた。どちらかが殴られるのを、もう1人が見ているという事もあった。その日殴られていたのは、風我だった。優我にとって、風我はもう一人の自分のような存在。風我の痛みは自分の痛みでもあった。父親に殴られるもう1人の自分を助けたいと願ったとき、風我の全身にピリピリとした感覚が走り、次の瞬間には優我は風我と入れ替わっていた。

 その時は何が何だか理解できなかった双子が、能力をはっきりと自覚したのは小学校の頃。大人しい性格の優我は勉強が得意で、元気で後先を考えない風我は運動が得意。相変わらず2人で1人のような存在だった。授業中、優我が机に座り問題を解いていると、ピリピリとした感覚が走り、次の瞬間には別のクラスの黒板の前に座っていた。それからも何度かこの能力が発動されることになったが、能力が発動されるのは1年に1度、誕生日の日のみ二時間おきに発動されることに気づいた。年に1度しかない入れ替わりの日を狙って、2人は今年はどんな入れ替わりを試してみるか実験をするようになった。

 中学生になった双子は、相変わらず家では父親から暴力を受けていた。なるべく家にいたくない2人は極力外で時間を潰していた。近所で、2人が「岩窟おばさん」と呼ぶ、おばさんが胡散臭いリサイクルショップを営んでおり、2人は時折そこで働くようになった。主に不用品の回収などを手伝っていたが、ある日、双子は、岩窟おばさんから「処分してほしい」とシロクマのぬいぐるみを渡される。そのぬいぐるみは、血が固まったような赤色に染まり、釘が刺さっている気味の悪いぬいぐるみだった。

 ぬいぐるみを持って双子が歩いている途中、いじめの現場に遭遇した。「ワタボコリ」というあだ名の、学校のいじめられっ子が、広尾といういじめっ子とその仲間たちにいじめられていた。ワタボコリを助けようという気持ちは特にない2人であったが、誰かを力で支配する広尾の姿が、父親の姿に重なり風我は広尾の頭に石を投げ、そのままバレないように逃げた。双子は、帰り際のワタボコリに出会い3人で歩いていると、ランドセルを背負った小学生の女の子と出会う。「お母さんと喧嘩して家出をしてきた」というその子に、「何かあったらおまもりになる」と言って風我は持っていたシロクマのぬいぐるみを押し付け、そのまま帰った。

 家に帰った双子は、ニュースでさっき会った女の子が車にはねられて亡くなったことを知る。しかも、後日岩窟おばさんから聞いた噂によると、単なる交通事故ではなく、十五歳の無免許の男子高校生が、小学生を逃げられないように縛って立たせて真正面から轢き殺したという。しかも、バックして何度も何度も轢いていたという。そのおぞましい事件は、助けられたかもしれない、と双子の心に一生消えない傷となって残った。

 自分に石を投げた犯人が見つからず機嫌の悪い広尾は、相変わらずワタボコリをいじめていた。その様子を見た双子は、広尾を驚かせようとある計画を練った。その日は偶然にも、2人の誕生日であった。双子は毎年、入れ替わりの実験をする中で、入れ替わりをする時、自分たちが持ち上げられる物ならば一緒に移動できるということを知っていた。優我は自分も一緒にいじめに参加すると見せかけて広尾に声をかけた。ワタボコリを使われなくなった倉庫に閉じ込めようと発案し、広尾はその意見にのりワタボコリを倉庫に閉じ込める。ワタボコリが出てこないように、倉庫の前にいた広尾たちだったが、その瞬間、倉庫の中にいたはずのワタボコリが広尾の真後ろに現れ、クラッカーを鳴らして驚かせたのだった。実は、事前に倉庫に風我が隠れており、入れ替わりの時間になったらワタボコリと手をつないで、ワタボコリごと優我と入れ替わったのだった。結局、ワタボコリに驚かされたことに激怒した広尾によって、ワタボコリは広尾たちからさらに殴られることになったが、双子が自分たちの能力を生かして人を巻き込んだ初めての出来事となった。

 中学卒業後、勉強が得意な優我は高校に進学、風我は岩窟おばさんのリサイクルショップで正式に働き始めた。道は変わったが、2人の関係は変わらず2人で1人のような存在だった。大きく変わったことは風我に彼女ができたことであった。彼女の小玉は両親がおらず、叔父の家に世話になっていた。

 ある日、風我は仕事で回収したパソコンから、悪趣味な画像を見つける。裸の女の子がガラス張りの水槽の中で溺れている姿を撮ったもので、その女の子は小玉であった。調べると、女性が苦しんでいる姿を見て興奮する性癖の男性のためのショーがあり、小玉の叔父がショーの主催者であるということがわかった。

 2人は小玉を救出するために、ショーの常連の男性を脅し、優我が観客として忍び込む計画を立てた。優我がショーを見に行く日、風我は小玉と遊園地に遊びにいく約束をしていたが、直前に小玉からキャンセルの連絡が来る。この日は、双子の誕生日であった。優我は、身分を偽りショーの観客として忍び込み、小玉が沈められる様子を、心を無にして見つめていた。その時間になり、優我は他の観客の前に立ち上がり大声でショーを止めた。

 唖然とする観客の前で、「変身ヒーローを見たことはあるか」と問いかけ、「変身」の言葉と同時にヒーローの衣装を着た風我に変身した。風我は小玉の叔父さんを鉄の棒で殴り、ショーもめちゃくちゃに壊した。優我と風我が入れ替わる瞬間に、脳裏をよぎったのは、あの小学生の女の子のことであった。助けられなかった、という心に空いた穴を少しでも埋めたかったのだと自覚した。

 大学進学した優我は1人暮らしをはじめ、風我は小玉と同棲をし、2人はやっと父親から解放された。優我はコンビニでバイトを始め、若い母親のハルコとその息子で小学生のハルタの親子と出会い仲良くなる。ある日優我の住む地域で小学生の失踪事件が起きる。数日後見つかった遺体には乱暴に扱われた形跡があった。犯人は見つからず、不安な気持ちで元気がないハルタの姿を見て、ハルタを元気づけるために、次の誕生日に風我に協力してもらって変身ショーを見せようと計画をする。誕生日前日、優我のコンビニに偶然父親が現れる。体格も力も父親と変わらないほどに成長しても、幼少期から植え付けられた恐怖は変わらず父親の前に立つと身動きがとれない。ハルコとハルタと親しく話す様子を目撃され、優我は嫌な気持ちのままその日を過ごした。

 誕生日当日、優我は風我と入れ替わりの準備をして約束の時間を待つが、ハルコからサッカーの練習に行っているはずのハルタが帰ってこないと連絡が来る。命を奪われた小学生の事件がよぎり、風我にも連絡して必死でハルタを探す。途中ハルコとも連絡がとれなくなった優我は、嫌な予感がして、父親と昔住んでいたアパートに向かう。そこには父親と服のはだけたハルコがおり、優我は「父の車のトランクにハルタがいる」とハルコに言ってそのまま逃がし、怒りに任せ父親を殴り続けた。その時、入れ替わりの時間が来た。優我はその時風我がいたトイレに、風我は父親の家に、それぞれ入れ替わった。優我は急いでアパートに向かうが、そこに2人の姿はなく、風我が逃げた父親を追って行ったのだと察した。2人を探して後を追うと、交通事故で人だかりがあり、そこには激しく燃える父親の車と、バイクと共に道に倒れた風我の姿を見つけた。大量の血が流れ、風我はもう動かなくなっていた。

 優我からここまでの話を聞いた高杉は、「弟さんは亡くなったのか。じゃあトイレの映像はフェイクなんだな。」と優我に聞いた。優我は、動画は加工したものであると認め、ある時期からいなくなった母親を探すため、テレビに出たいと思ったと伝える。そのために、双子の能力についての話を聞いて欲しくて動画を作ったと伝えた。高杉は、車の中で用意してあるカメラで撮るので、今の話をもう一度説明して欲しいと優我に頼み、2人はファミレスを出て車に乗り込んだ。その途端、優我は高杉に殴られ頭に鋭い痛みを感じ、意識が途切れる。

 途切れる頭で優我はこれまでの事を思い出していた。父親の自宅からハルコたち親子を逃がした事件の後、優我は引っ越し、大学も辞め自暴自棄に暮らしていた。そんな時、行方不明だった小学生が自宅に帰ってきたというとあるニュースを見た。監禁されていたが逃げて助かった小学生の発言は連日ニュースで取りあげられ、過去にハルタの町で起きた事件の関連性なども報道されていた。

 優我はそこで、小学生が「シロクマのぬいぐるみが置いてあった」と発言したことで、中学生の時の事件を再び思い出す。当時未成年だった犯人は、金のある父親に事件をもみ消させ、今も幼い命を狙って生きていることを知る。小玉のショーを壊した時に、そういった悪質な事件をもみ消している弁護士の存在を知っていた優我は、その弁護士を脅し犯人を突き止めた。その犯人は、さっきまで優我の目の前にいた高杉であった。高杉に、例の動画を見てもらったのは、テレビに出たいという理由ではなかった。高杉が本当に犯人なのかを確かめるため近づいたが、まさか殴られるとは思っていなかった。優我は朦朧とする意識の中で、自分を助ける人はもういないと思っていた。

 同じ日の少し前の時間、学生時代「ワタボコリ」というあだ名だった、ワタヤホコルという男性は自身が経営しているサイバーセキュリティの会社に、突然、学生時代の同級生がお店にやってきて驚いていた。その同級生は、学生時代に不思議な縁があった双子の常盤優我であった。優我はシロクマのぬいぐるみを持った女の子の話をし始め、「今から挽回しに行こう」と誘ってきた。しかしワタヤホコルの妻が現れ、彼女が妊娠していると知った優我は「やっぱり忘れてくれ」と言い残して店を出て行った。ワタヤホコルは優我の発言が気になり、優我の後をつけてファミレスに入る。優我は男と話していたが、ファミレスを出た後、男に強引に車に乗せられた。ワタヤホコルは慌てて優我を乗せた車の後を追い、豪邸にたどり着いた。サイバーセキュリティの仕事をしているワタヤホコルは、難なく鍵を解除し優我が監禁された地下室に侵入する。

 頭から血を流している優我を起こし、2人が脱出を試みようとした直後、高杉が猟銃を持って現れ、2人に向けて迷わず発砲した。逃げようとするも何度か発砲され、優我は自分の命がすり減っていくのを感じていた。ワタボコリは、高杉に許してくれるよう頼んでいたが、高杉はその様子をスマートフォンで動画に撮りながら高らかにわらった。優我はワタボコリに巻き込んでしまったことを詫び、高杉に最後に一言「嘘をついていた」と伝えた。その嘘は、風我は死んでいないということ、そして誕生日が今日だということであった。その瞬間風我が現れ、状況を呑み込めない高杉に隙ができ、風我が高杉の動きを封じた。入れ替わりの能力ができてから初めての事であったが、その場には風我と優我の2人がいた。優我の命がつきる前に入れ替わりが起きたが、優我が風我と場所に飛ぶ前に優我の命は尽きてしまった。2人にとってそれが最後の入れ替わりとなった。



フーガはユーガの読書感想文

 この作品は、常盤優我と常盤風我という双子の兄弟が持つ不思議な能力と、その双子の幼い頃からの人生を描いている作品です。1年に1度、2人の誕生日の日にだけ入れ替わるという斬新な設定に、最初は読んでいてリアリティに欠けるのでは、とも思いましたが、全くそんなことはなく、読んでいくうちにこんな能力が実際に存在するようにも思えてきました。双子の優我と風我の性格の違いや2人の固く結ばれた関係性がわかりやすく、また最後の最後まで伏線が張り巡らされており、思わず騙されてしまいました。物語後半からの伏線回収は実に見事で、全体を通して重たいシーンも多くありますが、知らず知らずに物語に引き込まれて一気に最後まで読んでしまう作品です。

 また、双子の不思議な能力とは別の軸として、彼らが幼少期より父親から虐待を受けているという境遇が、物語の大きな軸としてあります。不思議な能力を手に入れたからといって彼らの境遇が良い方向に変わるといったことはなく、理不尽に暴力を受け続けているというのが、非現実的なこの物語の中で、何故だか酷く現実的に感じました。この「理不尽な暴力」は、作品の中で双子の父親の他にも、風我の彼女である小玉の叔父であったり、小学生を狙った犯罪を繰り返す高杉であったりと、様々な形で出てきます。読むのをやめたくなるような辛くなるシーンもありました。ただ、これは物語の中だけではなく、現実世界でも「理不尽な暴力」に苦しむ人は多くいるのではないかと感じました。

 物語の結末として、複数の残忍な事件を犯した犯人である高杉を、双子が力を合わせて追い詰め、終わりを迎えますが、「正義が必ず勝つのだ」といった綺麗な爽快な気持ちよりも、私の心の中には「理不尽な暴力」に対する行き場のない怒りのようなものがじんわりと残りました。それは、作品の中の風我と優我の怒りでもあるし、実際には彼らのような能力を持てない無力な自分への怒りにも感じました。軽快でテンポの良く読めますが、読了後は重く考えさせられる稀有な作品だと思います。(まる)



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