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境遇/湊かなえのあらすじと読書感想文(ネタバレ)

2018年2月10日 1時20分 参照回数:

境遇/湊かなえのあらすじ


 デビュー作の『あおぞらリボン』がベストセラーとなった絵本作家の高倉陽子と、新聞記者の相田晴美は、幼いころ施設で育ったという同じ境遇を持つ親友同士。

 晴美は『朝陽学園』という児童養護施設に預けられ、高校卒業までの18年間を施設で過ごした。施設を出た後も、晴美は施設の手伝いに訪れていたが、陽子と出会ったのは施設が開催するイベントの手伝いの時であった。陽子は市のボランティアグループの1人であった。

 晴美が初めて陽子を見た時、何不自由ない外見に見えた。しかし、陽子は生後まもなく、『ゆうあい園』という施設に預けられて、その後、養子として別の両親に育てられていた。『ゆうあい園』は財政難のため閉園になってしまっていたが、陽子は自分のルーツを知るきっかけになればと、様々な施設のボランティアをしていたのであった。互いに本当の両親のことを知らず、同い年の2人は、すぐ親友となった。

 出会って5年が経ったある日、陽子は晴美に「私たちが親友になれたのは同じ境遇だからなのかな」という質問をする。図書館で働いていた陽子は、自分の境遇とかけ離れた県議会議員の家の長男である高倉正紀にプロポーズされ悩んでおり、晴美に相談をした。晴美は、陽子の質問には答えず、安心させるため、誰にも打ち明けずにいた話をする。晴美は、『朝陽学園』の門の前に置き去りにされていた。その時に青いリボンと「青いお空から、あなたの幸せを見守っている」という手紙が書かれていた。晴美にとって、青いリボンは、顔も知らぬ母と自分を繋ぐ証であった。晴美は、宝物である青いリボンをはさみで半分に切り、陽子の右手首に結びつけた。

 正紀と結婚した陽子であったが、慣れないながらも正紀の仕事の手助けをしながら、2人の間に授かった息子の裕太の育児をしていた。陽子は、忙しくかまってあげられない裕太のために、晴美から聞いた話を元に絵本を作って持たせていた。その絵本を見た、正紀の事務所関係者が陽子に黙って日本絵本大賞新人賞に応募し、陽子はベストセラーの絵本作家となる。陽子は晴美に申し訳ない気持ちでいっぱいであったが、そのおかげで自分の母が見つかるかもしれないとも思っていた。

 ある日、スイミングスクールに通っている裕太が帰ってこなかった。陽子は、正紀の事務所の人達と一緒に裕太の捜索を始める。そこに、FAXで「息子は誘拐した、返して欲しければ真実を公表しろ」という脅迫状が送られてきていた。また、「事件を思い出せ」とも書かれており、その事件とは警察に通報したことで女子高生が殺されたという事件のことであった。そのため警察には通報できず、事務所ではみんなどうしたら良いか悩んでいた。また、海外で大事な会議に出ている正紀にも、心配かけてはいけないという理由で、連絡をしないことにした。

  陽子は新聞記者である晴美に連絡を取り事務所に来てもらい事情を相談した。そして、事務所の人に内緒で、事務所の秘密を調べて欲しいとお願いする。以前、正紀は不正献金を受けとった疑惑で警察から取調べを受けニュースになっていた。選挙も近く控えており、選挙がらみの犯行ではないかと陽子は考えていた。

 しかし、晴美は、真実の公表とは陽子の境遇についてではないかと考えていた。以前から陽子の周囲をうろついていた女性を見かけており、その女性が怪しいと感じていたが、晴美は陽子の願い通り不正献金について調べることにした。そして、数日後、2度目の脅迫状が送られてきた。脅迫状には、「樅の木町殺人事件」と書かれていたが、事務所の人にはその事件について心当たりのある人がいなかった。陽子は晴美に、この事件についても調べてもらうよう依頼する。

 陽子は犯人の特徴に基づき聞き込みをした結果、特徴と一致する橋本弥生という女性の情報を手に入れる。そして、なんと陽子が聞き込みをする以前に、正紀も弥生について聞き込みをしていることが判明し、そのことを正紀に確認する。が、弥生のことを調べるのはやめろ、と止められてしまう。

 晴美は、脅迫状にあった「樅の木町殺人事件」について調べた内容を陽子に共有した。陽子が預けられた『ゆうあい園』のある市で、心臓病の妻の手術費用を工面するために行われた殺人事件であった。加害者の男性は既に獄中で死んでいたが、心臓病の妻の手術は無事成功して今も生きており、また事件当時妊娠していたということも分かっており、陽子はその娘が自分ではないかと考えた。その女性の名前は下田弥生であった。

 5年前にリボンをもらった思い出の公園で、晴美と陽子は話し合う。陽子は、下田弥生と橋本弥生は同一人物で、自分の母であり、つまり自分は殺人犯の娘であることを確信していた。そして、誘拐の犯人は遺族の関係者ではないかと考えていた。

 陽子は裕太を守るため、犯人に言われたようにこの真実を公表することを決めた。そして、自分の境遇で正紀に迷惑をかけられないと、離婚することも決めた。晴美は、一度正紀と話し合ってから決めてみるようにアドバイスをする。陽子は、晴美の気遣いに「ありがとう。境遇がわかっても親友でいてくれて」というあの日と反対の言葉を口にする。その言葉を聞いた晴美は、自分が持っていたもう半分のリボンを陽子の手首に巻き、境遇なんて関係ないと伝える。

 陽子は海外出張から帰ってきた正紀に、これまであったことをすべて話した。そして、自分が殺人犯の娘であることも伝えた。しかし正紀は、陽子が弥生の娘であるということを知っていた。正紀は陽子のために、ずっと陽子の親について調べていた。そして、弥生の情報を手に入れ、弥生に会いに行った。弥生は病院で『あおぞらリボン』の読み聞かせを行っていた。正紀が弥生に陽子の名刺を見せると、弥生は「陽子とは何も関係ない」と強く言い、その場で心臓発作をおこし倒れた。幸い病院であったため命に別状はなかったが、苦しみながら「陽子にこの事を伝えないでくれ」と頼む弥生を見て、正紀は陽子に言えずにいた。また、正紀は父の代まで、不正献金があったことを認め、自分も真実を公表する覚悟を持っていた。

 陽子は裕太を助けるために、出演を予定していた「ミツ子の部屋」という生放送番組で、真実を公表することにした。放送当日、陽子は、絵本は施設に預けられた親友の話を聞いて作ったこと、自分も同じように施設で育ったこと、そして殺人犯の娘であることを告げた。番組スタッフは動揺し陽子を止めたが、ミツ子の心遣いにより陽子は全てを告白することができた。さらに、陽子に内緒で正紀も出演し、不正献金疑惑について後日、真実を話すための会見を開くと告白した。

 放送が終わると、晴美が裕太を連れて陽子を待っていた。晴美は「犯人のところに案内する」と言い陽子と2人でタクシーに乗った。着いた場所は晴美が育った『朝陽学園』であった。そして、その場で晴美は語りだす。自分の生い立ちを知りたくて、晴美は新聞記者になった。そこで、目に留まったのは「樅の木町殺人事件」であった。加害者にも被害者にも子供がいることがわかり、調べていくうちに自分が被害者の娘であると確信した。

 「樅の木町殺人事件」とは別に、晴美は陽子の周りでよく見かける不審な女性を調べており、橋本弥生に繋がった。そこで、陽子との関係を頑なに否定する弥生の姿を見て、弥生が陽子の母である確信した。そして、弥生が事件の加害者の妻の下田弥生と同一人物であることもわかり、被害者の娘の陽子に事件のことを知ってもらうため誘拐事件を起こした。

 自分が誘拐を起こしたが、晴美は親友の陽子が苦しむ姿を見て、自分が起こした事を悔やみ償うという決意をしていた。しかし、そこに、弥生が現れて、自分の本当の娘は陽子ではなく晴美であると告げる。弥生は陽子が出した絵本を見て、弥生は自分の娘が陽子であると思っていたが、ミツ子の部屋で陽子の絵本は親友である晴美のエピソードであったことを知ったのだった。真実を知った晴美は、やはり陽子にしてしまったことを償おうとするが、陽子は裕太のためにもこれで終わらせようと言って、2つの青いリボンを晴美に返した。

境遇/湊かなえの読書感想文


 作中に「私たちが親友になれたのは同じ境遇だからなのかな」という言葉があります。産みの親を知らず施設で育ったという、同じ境遇を持つ晴美と陽子は親友になりました。同じ苦しみや悲しみを理解しあえる相手というのは、とても大切だと思います。ただ、境遇がすべてを決めると私は思えませんでした。私は自分の両親を知っていて、両親から愛情をかけて育ててもらいました。ですので、実際に施設で育った人が苦しみや悲しみを抱えているとしたら、その気持ちを完全に理解することはできないと思います。それでも、施設で育った人だって、両親に育てられた人だって、たとえ犯罪者の娘だって、その被害者の娘だって、お互いに時間をかけて話をして信頼関係を築くことで理解しあえる部分があると思いますし、境遇によってすべてが決まるとは思えません。

 晴美は自分が被害者の娘で、陽子が犯罪者の娘であると知ったとき、犯罪者の娘である陽子が何も知らず幸せに生きていることを「不公平」だと言い、裕太を誘拐しました。確かに、自分の出生や家族構成などの境遇は変えることができないものだと思います。しかし、今現在の自分の幸せ、そして他人の幸せを、境遇に縛られて考えてしまうのは、とても悲しい考え方だと感じました。また、人間は親だけではなく、家族構成や生まれた場所、育つ環境など、自分で選ぶことができないことが多々あります。1人、1人が違う人間として生まれたのだから、「公平」でないのが当たり前だと思います。人の幸せが境遇で決まるというならば、生まれた瞬間にその人の幸せが決まってしまうということになります。

 晴美、そして陽子は、過去を知らない、家族を知らないということによって、過去や血の繋がりに縛られているように見えました。自分について知らないことがあるのは、不安なことだと思います。知りたいと考える気持ちも非常にわかります。それでも、自分の過去にとらわれず前を向いて、今を大切にすることが大事なのではないかと思いました。青いリボンを結んでお互いの繋がりを感じ大切に思っていたように、目の前にある繋がりや幸せに目を向けていくことができれば、誘拐事件は起きなかったのではないかと思いました。(まる)


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