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娼年/石田衣良のあらすじと読書感想文

2017年12月11日 14時55分 参照回数:

娼年のあらすじと読書感想文

 子供の頃に母親を亡くしたリョウ。なぜあのとき、あの場所で母親が死んだのか、何年もの間分からないままでいた。

 リョウは大学生になり、実家を出て一人暮らしを始めた。しかし鬱屈とした気分を抱えたまま、大学にはあまり顔を出さず、バーテンダーのアルバイトばかりしている。成人した今も、最後に見た母親の姿を夢に見ることがあった。

 五月なかば、アルバイトをしているバーに、ホストをやっている友達のシンヤが一人の女を連れてきた。名前を御堂静香といった。リョウは御堂静香の笑いじわを見て「きれいだ」と思った。

 シンヤと御堂静香とリョウは三人で話をした。女性にモテることを仕事としているシンヤと、女性経験は積んでいるがあまり女性に興味を持てずセックスも楽しめないリョウ。御堂静香はリョウに「女性やセックスがつまらないというのは、問題あると思うな」と言った。

 シンヤと御堂静香が店を去った後、静香のコースターの下に名刺が挟まっていた。静香の運営しているクラブの名刺のようだった。リョウはその名刺を握りつぶし、生ゴミの箱に捨てた。

 一週間後、御堂静香が再びリョウの勤めるバーにやってきた。今度は一人だった。そして御堂静香は「あなたのセックスに値段をつけてあげる」と言って誘った。リョウはアルバイトが終わった後、御堂静香と会うことにした。

 バーを出て、御堂静香の車に乗る。まず二人は軽く食事を済ませることにした。行った先のレストランで、御堂静香は自分の運営するクラブのことを話した。娼夫を雇い、女性たちに買わせていること。そしてリョウのセックスを見た上で、働かせるかどうかを決めてみたいということ。

 食事を終えた二人は、御堂静香のマンションに行った。そこでリョウは咲良という十七から二十歳くらいの女性を紹介され「この子とセックスをしてほしい」と言われた。御堂静香はその様子を見て試験をするということだった。

 言われるままにリョウは咲良とセックスをした。リョウは今までにない興奮を覚えた。そして終わった後に自分のセックスの価値がどれくらいなのかを御堂静香に尋ねた。御堂静香は「クラブでの最低価格1万円の半分の価値しかない、不合格のセックス」と判断した。

 けれども咲良はリョウのセックスに価値があると判断した。そのためリョウは「合格」とされ、「クラブで働かないか」と誘われた。そしてリョウはクラブで働くことにした。

 御堂静香のマンションの部屋で会ったアズマという娼夫は、「リョウは人気者になる」と予言した。御堂静香はリョウと咲良のセックスを見て「そうは思わなかった」と言ったが、リョウに期待も寄せた。

 クラブで働く間にさまざまな女性と出会った。そしてリョウは娼夫の仕事にのめり込んでいく。もっともっと、女性の欲求について知りたいと思う。女性にはどんな欲求があり、何が隠されているのかを知りたいという探究心にかられるようにして、夏の間仕事に励んだ。

 そして一夏の間に人気娼夫にまで上り詰めた。今まで女性とのセックスが楽しいとは思ったことがなかったが、この仕事を通してリョウは非常に興味を持つようになっていた。

 しかしシンヤや、大学の友人のメグミは娼夫の仕事に反対した。バーに二人で来て、一刻も早く仕事を辞めるように勧めた。リョウも娼夫の仕事が他人に堂々と言える仕事ではないと理解はしていた。けれども彼の女性の欲望への興味は止められないものになっていた。

 何人もの客の女性と関わったことで、自分のセックス観がどれくらい成長したのかを知りたくなった。

 そして御堂静香と付き合いたいと思うようになった。御堂静香のマンションに行き、思いを打ち明け、押し倒したが、彼女は拒んだ。全身でリョウを受け入れたいと欲しているのに、それを拒む彼女のことが理解できなかった。

 リョウがどうしても自分のセックス観がどう変わったのか知りたいのだと言ったら、咲良とセックスしているところを御堂静香が観察して確かめるということになった。

 最初の試験の時と同じ部屋で、リョウは咲良とセックスをした。それは今までにないほどの刺激的なセックスだった。リョウと咲良と御堂静香は一緒にエクスタシーを迎えた。

 御堂静香は自分がHIVに感染していることや、咲良が自分の娘であること、今までのビジネスや過去にあったことについて話した。そしてリョウに「男性としてクラブの運営に携わってほしい」と言った。

 一週間の間、リョウは御堂静香からの申し出について考えた。その間も仕事をしていた。そんな中、リョウに名指しで指名が入った。

 行ってみると大学の同級生のメグミだった。メグミはリョウの娼夫の仕事を見てみたいと言って呼び出したのだった。リョウは仕事として仕方なくメグミを抱く。

 そして終った後、メグミはリョウにクラブをやめるように言った。けれどもリョウはそれを否定し、拒んだ。去っていくリョウに対してメグミは「何としてでも辞めさせる」と言った。

 そして二日後、新聞に御堂静香が逮捕されたことが書かれていた。彼女とは連絡が取れなくなり、娼夫の仕事も途絶えた。リョウは御堂静香からの手紙で、自分の母親の秘密を知ることになる。そしてリョウはバーに訪れたアズマや咲良と御堂静香が帰ってくるのを待ち、またクラブを再建しようと約束をした。

娼年/石田衣良の読書感想文

 露骨な性的描写があります。苦手な人は読みづらいかもしれません。

 けれども全くいやらしさのない文章でした。性的な描写に耐性のある人であれば、その文章の美しさに心を惹かれることでしょう。

 繊細な描写は女性の欲望がいかに複雑で、彩豊かであるかを表現しきっています。読む人の官能を刺激するかのように描かれているわけではありません。「食事をする」「眠る」などと並んだ、あくまでも自然の流れに沿った行為として描かれている印象がありました。

 この『娼年』を読むと、欲望の形とは本当に十人十色で無限の数あるのだということが分かります。一言で、単純に言い切れるものではない。何重にも、何重にも塗り重ねた色合いによって表現するしかないもの。

 欲望とは年齢やその人の背景によって作られます。さまざまな要素を混ぜ合わせてできあがっていく欲望の美しさに、どんどん惹きつけられていく主人公のリョウ。

 人間の欲望について知ることは、宇宙の星について知るのに似ているのかもしれません。一つ知ったら、また一つ知らないものが出てくる。それを追いかけて、追いかけて、追いかけ続けても、答えを知ることはできない。

 性欲とはそういうもの。そして愛とはそういうもの。リョウが二度目に咲良とセックスをしているところを読みながら感じました。

 作品の中ではさまざまな欲望を持った女性たちが登場しました。欲望を抱え、育てながら懸命に生きる女性たち。その女性たちのどれもが、読者である筆者には「美しい」と思いました。挿絵などはありませんでしたが、私には彼女たちの活き活きとした表情が文章を通して見えました。

 禁欲が美徳だとか、欲がないことを求められる世の中ですが、『娼年』を読んで「(性欲に限らず)欲望があることこそが美しさの鍵ではないか」と思いました。

 欲望は人を美しくする。欲望は人生を豊かにする。もちろん付き合い方を工夫した前提ではあります。でも、欲望があってこそ、美しさが成り立ち、豊かな生活になり、人間として完成するのではないのでしょうか。

【この記事の著者:鈴木詩織】
愛知県で活動しているモデル・作家。趣味は写真と読書と執筆。 アメブロ  アマゾン著者ページ



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