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(303)熊谷直実

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登場人物:熊谷直実、熊谷直家、平山季重

 寿永3年(1184年)2月6日の夜半には、一の谷の搦め手・西の木戸口を側面から攻める源義経軍3000騎が一の谷の城郭の側面に到着しました。その中に、熊谷直実や平山季重がいました。

 熊谷直実は子の直家を呼び、「この搦め手は険路なので誰が先陣かを争うこともあるまい。なので、土肥実平が受け持った一の谷の搦め手の正面・西の手へ回り、一の谷の先陣を取ろう」と告げました。直家は「その儀、もっともです。皆そう言いたかったところです。なので、早く行きましょう」と答えました。

 熊谷直実は、「この手には、大軍どうしの混戦を好まない平山季重もいる。平山の様子を見てこい」と、部下を遣りました。案の定、平山は、熊谷直実よりも先に出発していて、「誰も知らないだろうが、季重においては、先陣を一歩も譲らない。譲らない」と独り言をつぶやいていました。季重の部下が季重の馬に飼葉を食わせて「憎き馬の長喰いかな」とムチを打っていると、季重は「そんなことをするな。この馬とも今夜限りで別れるのだぞ」と馬を出発させました。熊谷直実の部下は走り帰って、熊谷直実に平山季重の様子を伝えました。熊谷直実は「それならば」と、自分も馬を走らせました。

 熊谷直実のその夜の出で立ちは、かち(濃い藍色)の直垂、赤いなめし革で威した鎧、紅の母衣(背中にまとう矢避け)を掛け、権太栗毛といううわさに聞こえる名馬に乗っていました。

 息子の小次郎・熊谷直家は、草の模様を薄く染めて摺り出した直垂、白・薄藍・紺の三色がからんだように染めた革を細く切って威した鎧、西桜という白月毛の馬に乗っていました。

 旗指しの従者は、萌黄色の黄ばんだ直垂、小桜を染めた革をさらに黄色く染め直した鎧を着て、河原毛がさらに黄ばんだ馬に乗っていました。

 熊谷直実、直家、旗指しの主従3騎は、駆け下りる谷を左に見ながら、右へ進みました。そのうちに、普段は人も通わない田井畑という古道を経て、一の谷の波打ち際に出ました。

 一の谷の近くに、塩谷という場所がありました。源義経軍1万騎から7000騎を預けられた、搦め手の正面主力・土肥実平の軍は、未だ夜が深かったので、塩谷で待機していました。熊谷直実は、夜に紛れて、波打ち際から、土肥実平が陣取る塩谷を抜けて、一の谷の西の木戸口に到着しました。

 その時も未だ夜が深く、城内は静まりかえって音もしません。熊谷直実は、直家に「この手は険所なので、われも、われもと先陣を狙っている者どもは多いだろう。すでに到着していて、夜明けを待ってどこかに控えている者もいるかもしれない。心寂しく、直実一人と思うな。さあ、名乗ろう」と告げ、おし並べた楯の側まで馬を進ませ、鐙をぶんばり立ち上がり、大音声をあげました。

「武蔵国の住人、熊谷直実、子息の熊谷直家、一の谷の先陣ぞや」

 それを聞いた場内は、「さてさて、音を出すな。敵の馬を疲れさせろ。矢種を射尽くさせろ」と、あしらう声すら返ってきませんでした。

(2012年1月20日)


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