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(249)平貞能の都落ち

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登場人物:平時忠、平教盛、平経盛、平貞能、平宗盛

 平家一門は、残存兵力7000騎を集め、安徳天皇を奉じて京の都から落ちていきます。

 清盛の義理の兄弟・平時忠は、山崎関戸院に安徳天皇の御輿を据えて、男山の方角へ伏し拝みました。「南無、帰命頂礼(地に頭を着けて祈り願う)八幡大菩薩、願わくは安徳天皇をはじめわれらを今一度、故郷へ帰し入れさせ給え」と願ったのは悲しいことです。

 平家の各々が顧みると、空が霞んで見えて、都を焼く煙だけが心細く立ち上っています。

 平教盛は、詠みました。

  はかなしな主は雲井に隔つれば

    宿は煙と立ち上るかな

 平経盛は、詠みました。

  故郷を焼野が原とかえりみて

    末も煙の波路をぞ行く

 故郷を煙の向こうに見て、前途に広がる万里の雲路に赴こうとしている心のうちが推し量られて哀れです。

 平家譜代の家臣で肥後の守・平貞能は、淀川尻に源氏が押し寄せてきたと聞き、蹴散らしてやろうと500騎を連れて向かっていましたが、間違いの情報だったので取って返しました。宇度野の辺りで安徳天皇の行幸の行列に追いつきました。

 平貞能は、平宗盛の前に出て告げました。

「なんと心憂いこと。これはどこへ行こうというのです。西国へ下れば、落人が来たといって、ここかしこにて討ち取られ、憂き名を流すことになるのが口惜しい。今はただ都に留まって、どのようにもなるしかないと存じます」

 平宗盛は答えました。

「貞能はいまだ知らぬのか。木曽の源義仲がすでに5万騎で北国から攻め上り、比叡山・東坂本に満ちている。後白河法皇も去る夜半に姿をくらましてしまった。人々は都の内にとどまってなんとかしようと申したが、さしあたり、建礼門院・平徳子と、二位の尼・平時子に憂き目を見させるのも、わが身ながら辛い。せめて安徳天皇の行幸だけでもと各々を引き連れて西国へ逃れ、ひとまず敵を避けてみようというのだ」

 貞能は、宗盛の言葉を受けて、告げました。

「それなら、貞能はいとまを賜って、都の内でなんとかしてみましょう」

 貞能は、部下の500騎を平維盛の軍団に編集し、自らは手勢わずか30騎ばかりを連れて都へ取って返しました。

 都では、平貞能が平家の残党狩りのために戻ってきたと、うわさされました。なかでも、池大納言・平頼盛は、残党とは自分のことだと思い、大いに恐れました。

 しかし、貞能は西八条の焼け跡に大幕を張って一夜を明かしただけで、戻ってくる平家の君達が一人もいなかったので、さすがに世の流れも心細くなったと思ったのでしょうか、源氏の馬の蹄に踏ませはしないと、平重盛の墓を掘り起し、遺骨を取り上げ、泣く泣く拝みました。

「ああなんと情けない。御一門の成れの果ての姿をご覧ください。『生ある者は必ず滅す。楽しみ尽きて悲しみ来る』と故事にありますが、今のこの状態はそれ以上です。重盛殿はこの日がくるのをかねてから悟っておられたので、神仏三宝に誓願し、命を縮められました。とても立派なことです。なんとしても、貞能も、その時にいっしょに重盛殿の後世のお供をしておくべきだったものを、甲斐なき命を長らえて、今日はこのような憂き目に遭っています。悲しい限りです。貞能が死んだら、必ず浄土へ迎え入れてください」

 貞能は泣く泣く言葉を繋げ、重盛の骨は高野山に送り、辺りの土は賀茂川へ流しました。それから、平家の行末を頼りなく思ったのでしょうか、安徳天皇には背を向けて、東国へ落ちていきました。先年、宇都宮左衛門尉・朝綱を罪人として預かった際に貞能が情けを持って扱ったので、朝綱を頼って東国に下ったのでした。朝綱はそのときの恩を忘れておらず、貞能をねんごろにもてなしたといいます。

 平家は、平維盛のほかは、平宗盛をはじめとして皆、妻子を伴っていましたが、身分の低い者は妻子を伴うわけにもいかないこともあり、再会できるとも分からず妻子を捨てていきました。皆、この日、この時に必ず帰ると言い残しましたが別れは悲しみばかりです。いわんや、この出発は、今日を最後、今生の別れとなる別離なので、行く方も、留まる方も、涙にくれました。相伝譜代のよしみ、年頃日頃の重恩をどうして忘れることができましょう、老いたるも、若きも、皆後ろを顧みて、前へ進めない有り様でした。ある者は磯部で寝て、別の者はえんえんと続く潮路を歩き続け、遠き道をわけすすみ、険しい道のりを耐えしのぎ、馬に鞭を打つ者もあり、船に竿をさす者もいて、皆、それぞれの心を持って、思い、思いに落ちていきました。

(2011年12月31日)


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