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(237)比叡山延暦寺からの返牒

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登場人物:源義仲、覚明、比叡山延暦寺の老僧と大衆

 比叡山延暦寺の大衆は、源義仲からの牒状を見て、案の定、ある者は平家に同心しようといい、別の者は源氏につこうと言いました。心が思い思いで、意見はまちまちでした。

 その中で、老僧たちが詮議し、意見をまとめました。

「われらはもっぱら、天皇が天長地久であることを祈っている。その中で、平家は当代の安徳天皇の外戚であり、山門においては、平家を帰依崇敬している。しかしながら、平家の悪行が過ぎて、万人は平家に背き、平家が国々に討っ手を遣わすといえども、逆に、討っ手が賊に滅ぼされている」

「源氏は近年、度々のいくさに打ち勝ち、運命を開こうとしている。なぜ当山だけが宿運が尽きようとしている平家に同心し、運命が開けている源氏に背く必要があろうか」

「よろしく、平家から厚く知遇を得た義理を覆し、源氏に力を貸そうではないか」

 老僧たちが、このように3000人の大衆にもちかけ、源義仲に返牒を送りました。

 義仲は、家の子・郎党を集めて、右筆の覚明に返牒を開封させました。返牒には以下のようにありました。

比叡山延暦寺からの返牒


 寿永2年(1183年)6月10日の牒状は16日に到着。見たところ、数日の鬱憤が一気に晴れた。およそ平家の悪行は年来に積み重なり、朝廷の騒動がやむことがない。平家の悪行は皆が口にし、忘れることができない。

 そもそも比叡山延暦寺は、帝都の鬼門の守りとして、国家静謐(ひつ)を祈念している。しかしながら、天皇が久しく平家の悪行におかされて、天下はいつまでも安全を得ることがない。顕教・密教の教えは、なきがごとし。擁護の神威は廃れている。

 ここに、貴殿は代々の武家に生まれ、めでたく、当代えりぬきの御仁たり。策略をめぐらし、義兵を起こし、たちまちのうちに、命を顧みず武功を立てた。その功績はいまだ2年と過ぎないのに、すでにその名が全国に知れ渡っている。当山の衆徒も、武功を聞き、よろこんでいる。国家のため、歴代の朝家のため、武功を感じ、武略に感心している。それをもって、比叡山延暦寺の祈りはむなしくはないとよろこび、日本の擁護に怠りないことを知った。

 自寺、他寺は、永久に仏法を仰ぎ、日吉の本社・末社がまつる神々は、再び経法が栄えようとしていることをよろこび、崇教が古きに戻ろうとしていることに随喜している。われらが衆徒の心中を、察し給え。

 しかればすなわち、あの世からは十二神将が薬師如来の使者として凶徒追討に加わり、この世では3000の宗徒が、修学賛仰の勤行をしばらく中止し、悪行を行う平家を罰する官軍を助けんとす。

 摩訶止観の仏法は、邪悪な平家を国外へ追い払い、真言密教の法の雨は、世を聖代に戻さん。衆徒の詮議、かくのごとし。

 寿永2年(1183年)7月2日、大衆等

(2011年12月28日)


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