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(228)源義仲の願書

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 進軍の途中で源氏の氏神といえる八幡宮を見つけた源義仲は、右筆・覚明に願書をしたためさせました。

源義仲の願書


 帰命頂礼(仏に帰依し、頭を地面につけて礼拝)。

 八幡大菩薩は、日本の朝廷の本主・応神天皇の化身であり、累世明君の先祖たり。皇位を守らんがため、人民のため、法身・報身・応身の三つを具足した金色の姿を現し、八幡宮の祭神である応神天皇・神功皇后・姫大神を祭り奉った。

 ここに、近年この方、平清盛という者があって、四海をほしいままにし、万民を苦しめている。すでに仏法の仇であり、王法の敵。

 義仲はいやしくも武家の家に生まれ、わずかに先祖伝来の塵を継ぐ。平清盛の暴悪を案ずるに、言語同断。運を天に任せて、身を国家に捧ぐ。義兵を試みて、凶器を退けんと欲す。

 しかし、ここに一陣の旗を挙げ、平家と相対すといえども、士気いまだ一致せず、いまにも恐れる心に支配されようとしている。

 戦場にて、八幡三所の社壇を拝す。感応の成就、明らかなり。凶徒誅戮、疑いなし。歓喜の涙がこぼれ、深く神に帰依し、肝に銘じる。

 ことに、曾祖父の前陸奥守・源義家が、八幡菩薩に帰依し、八幡太郎義家と名乗ってからこのかた、源氏一門で八幡菩薩に帰依しない者はいない。義仲も、源氏の末裔として、八幡菩薩に首(こうべ)を垂れて年久しい。

 今ここに義仲が大功を起こすことは、例えるなら赤子が櫂(かい)を漕いで巨海を渡り、かまきりがその斧を怒らせて大きな車に向かうがごとし。しかし、そうであっても、国のため、君のためにこれを起こす。まったく、わが身のため、家のために起こすのではない。志の至り、神の感応は、空にある。頼もしきかな、喜ばしきかな。

 伏して願わくは、冥界と顕界から神仏の威を現し、霊神の力を合わせて、勝利を一時に決し、敵を四方へ退け給え。しかれば則ち、丹誠を込めた願いが神仏にかない、御照覧あり。

 ついては、まず一つ、瑞相(吉きしるし)を見せしめ給え。

 寿永2年(1183年)5月11日 源義仲 敬って白す

 ***

 願書をしたためると、義仲をはじめ13人が、えびらに差した鏑矢を抜き、願書に添えて、八幡大菩薩の宝殿に納めました。すると、なんと頼もしいことに、八幡大菩薩が真実の志に偽りのないことをはるか彼方から見定めたのか、雲の中から、山鳩が3羽、飛び出てきて、源氏の白旗の上にひるがえりました。

 昔、神功皇后が新羅を攻めたとき、味方の軍勢は弱く、異国の軍勢は強敵でした。もはやこれまでと思われたとき、神功皇后が天に祈ると、雲の中から霊鳩が3羽飛び出してきて、味方の盾の前に現れ、異国との戦いに勝ちました。

 また義仲らの先祖の源頼家が、前九年の役で奥州の朝敵・安倍貞任、安倍宗任を攻めた際、味方が劣勢で、凶賊がいくさに強く、もはやこれまでと思われた時、頼家が敵陣に向かい、「これは、まったく、わたくしの火にあらず。神火なり」と火を放つと、たちまち風が敵の方に吹き荒れ、厨河(くりやがわ)の城郭が焼け落ちました。ついに、貞任、宗任は破れ、安倍氏は滅びました。

 義仲はこのような先祖のためしを思い出し、急ぎ馬から下りて、甲を脱ぎました。手水で清めてから、霊鳩を拝みました。神妙な心持ちです。

(2011年12月28日)


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