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ミニシアター通信平家物語 > (224)平経正の竹生島詣

(224)平経正の竹生島詣

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登場人物:平経正、有教、守教、上玄(琵琶の秘曲)、石上(琵琶の秘曲)

 北国に下向した平家軍では、大将軍の平維盛と平通盛は先を急ぎましたが、副将軍の平忠度、平経正、平清房、知盛はいまだ近江の国の塩津、貝津に留まっていました。中でも、清盛のすぐ下の弟・経盛の長男で皇后宮亮・平経正は幼少の時から詩歌、管弦の道に長じた人なので、このような戦乱の中でも心をすませていました。

 ある朝、平経正が、琵琶湖のほとりに出て、遥か沖に見える島を見渡しました。経正は、供をしていた藤兵衛尉有教を呼び、「あれはなんという島だ」と問いました。有教の答えは「あれこそ、うわさに聞こえる竹生島です」。経正は、「そうか、そんなこともあるのか。それなら、いざ参ろう」と、有教、安衛門尉・守教以下の侍6人を連れ、小舟に乗り、竹生島へ行きました。

 時候は、卯月(4月)の18日、新緑の梢はまだ春の名残をとどめ、深い谷のうぐいすの声はなくなろうとしていますが、初音がういういしいホトトギスが今を盛りに声を響かせ、藤の花が松の木にからみつき、たいへん趣のある様子でした。

 経正は急ぎ船から降りて、岸に上がりました。竹生島の景色に触れ、心をつまらせ、声を失いました。かの秦の始皇帝は童男童女1000人を遣わし不老不死の薬を求めさせ、漢の武帝は道士・文成に仙術を行わさせ不老不死の薬を求めましたが、「蓬莱を見るまでは決して帰らない」と言い張り、いたずらに船の中で年老いて、天も水もぼんやりとして、ついにたどり着くことがなかったという蓬莱の洞窟の様子も、この竹生島にはかなわないと思えました。

 ある経典に、「閻浮提(えんぶだい、須弥の外海中の四洲の南部=この世)の内に湖あり。その中に金輪際(須弥山の根底=世界の根底)から生い出た水精輪(水晶にて覆われた山)の山あり。天女の住む処」とあります。それはすなわちこの竹生島のことだろうと、経正は竹生島明神の御前にひざまずきました。

 経正は、「それ大弁功徳天(弁財天)は、如来・法身の大士なり。妙音弁財二天の名は、各別なりとはいえども、根源の仏はひとつで、衆生を救済する。一たび参詣した者は、めでたく所願成就すると承っていますので、頼もしく思います」と、静かに経を誦し法文を唱えていました。

 ようやく日が暮れ、陰暦十八夜の月が出て、海上を照らし、社檀もますます輝きました。まことにめでたい風景でしたので、常住の僧が「これは名高い琵琶です」と、琵琶を差し出してきました。経正は受け取り、秘曲・琵琶三曲の中から「上玄」「石上」を弾きました。お宮の中も澄み渡り、非常に趣が出ました。

 すると、明神も観応に耐えなかったとみえ、経正の袖の上に白龍が姿を現しました。経正は、あまりのかたじけなさに、しばらく琵琶を置き、このように詠いました。

  ちはやぶる神に祈りの叶へばや

    しるく(=著しく)も色の顕はれにけり

 経正は、朝敵を目の前に平らげ、凶徒を退けることは疑いないとよろこび、船に乗り竹生島をあとにしました。まことに、めでたいことです。

(2011年12月26日)


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