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(211)平清盛の人物像

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登場人物:平清盛、尊恵、閻魔大王

 その日の法要が終わった後、集まった僧たちは皆、帰りました。尊恵は大極殿の南方の中門に立ち、はるか大極殿を見渡しました。冥界の役人や民が皆、閻魔大王の前に畏まっていました。ありがたき参詣です。

 尊恵は、このついでに、後生の罪や障りを尋ねようと思い、大極殿に歩み寄りました。2人の従僧が箱を持ち、2人の童子が箱の上にきぬがさをさし、10人の位の低い僧が列を引いて、ようやく歩み近づくとき、閻魔大王と冥界の役人と民が皆、ことごとく、くだってきました。2人の従僧が薬王菩薩・勇施菩薩に、2人の童子が多聞天と持国天に変じました。10人の下級僧は10人の暴悪な鬼女である十羅刹女に変り、つき従いしました。

 閻魔大王は尊恵に、「他の僧たちは皆、帰ったのに、御坊一人が来た理由は何か」と尋ねました。尊恵は、「私は幼少のころから法華経を毎日転読しましたが、後生の罪・障りをいまだ知りません。そのことを尋ねようと思ったからです」と答えました。

 閻魔大王は告げました。

「往生か、不往生かは人の信じる、信じないにある。法華は過去、現在、未来の仏たちのこの世に生まれた根本の精神、衆生成仏の直の道。一念信解の功徳は、布施、持戒、忍唇、精進、禅定の行をも越え、法華経を転々と他の人に教え50人目に当たった喜びの功徳は、80年の布施にも勝る。そのため、お前はかの功徳によって、弥勒菩薩の浄土に生まれ変わるだろう」

 閻魔大王はまた、獄卒に、「この僧の一期は記録して箱の中に入れてある。取り出してほかの者に見せよ」と命じました。冥界の役人が承り、南方の宝蔵に行き、文箱を一つ持ってきて、読み聞かせました。尊恵は一期のことだけと思っていましたら、いちいち、漏れもなく記されていました。

 尊恵は、悲嘆号泣して言いました。「ただ願わくは、出離生死の方法を教え、無上の正覚を得る近道を示したまえ」。尊恵が泣きながら嘆願すると、閻魔大王はあわれに思い、種々の経文を読み上げました。

  妻子王位財眷属  死去無一来相親

  常従業鬼繁縛我  受苦叫喚無辺際

 閻魔大王は、その下知を誦経したのち、尊恵に与えました。尊恵はたいへん喜び、「現世の日本国で、平大相国清盛という人が、摂津の国・和田の岬に、四面十余町に家屋を立て、今日の10万の僧会のごとく、多くの持経者を呼び集め、坊ごとに僧をいっぱいに座らせ、念仏読経し、ていねいに勤行致しました」と告げました。

 閻魔大王は随喜、感嘆し、「その平清盛は、ただの人ではない。まことには滋恵僧正の生まれ変わりなのだ。天台の仏法を護持するため日本に再び生まれたのだ。私が清盛を日に3回、礼讃する文がある。平清盛に与えよ」と告げました。

  敬礼滋恵大僧正  天台仏法擁護者

  示現最初将軍身  悪業衆生同利益

 閻魔大王は、この文を読み終わると、それも、尊恵に与えました。尊恵はよろこびの涙を流し、南坊の中門を出るとき、10人の従僧が車の前後を守護し、東南に向かって空を翔け、ほどなくして戻ったと思ったときは、夢ごこちがして息もできませんでした。

 その後、尊恵は都へ上り、平清盛の西八条の屋敷に行き、閻魔王宮での出来事を告げました、平清盛はたいへん喜び、尊恵を様々にもてなし、様々な引き出物を与え、その時の恩賞で、尊恵は律師に叙されたといわれました。そして、このことで、人々は皆、清盛が滋恵僧正の生まれ変わりだと知りました。

 持経上人は弘法大師の生まれ変わり、白河院はまた、その持経上人の生まれ変わり。白河院はたくさんの功徳を残し、善根の徳を重ねました。末代でも、平清盛が滋恵僧正の生まれ変わりで、悪業も善根も積んで、世のため、人のために、自他の利益をしました。かの提婆達多と釈迦が、同じく衆生のために利益をなしたのと変わりありません。

(2011年12月21日)


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