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(200)小督の文

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登場人物:仲国、小督

 仲国が門をたたいていると、少ししてから、内側で人の気配がしました。仲国はよろこんで待ちました。鎖が外され、門が細めに開き、幼い様子をした小女房が顔だけを出して、「ここは、おっしゃるような内裏からの使者が来るような所ではありません。場所違いでしょう」と言ってきました。

 仲国は、返事をしたら門を閉ざされ、鎖を締められると思い、うむをいわせず門を押し開けて、中へ押し入りました。仲国は、妻戸の端になる縁まで行って、「どうしてこのような場所に籠っているのですか。高倉天皇は、小督殿のために思い沈まれ、お命もすでに危うい様子。このように言えば、空ごとと思うかもしれませんが、高倉天皇から文をいただいてきています」と、文を取り出して、渡しました。さきほどの女房が文を受け取り、小督に取り次ぎました。

 小督が文を開くと、ほんとうに高倉天皇からの文でした。小督は、ひと重ねの女房の装束を添えて、高倉天皇の文を返してきました。仲国は、「返事をいただいたうえならとやかく言わないが、別の使者ならいざ知らず、禁中でいっしょに琴を弾き、笛を吹いた仲国をお忘れか。直接の御返事をいただかないうちは、どうして帰ることができましょう」と言いました。小督は「確かに」と思ったのでしょうか、返事を書きました。

 小督は、言いました。

「あなたも聞いたでしょうが、入道殿(平清盛)があまりに恐ろしいことばかりを言うので、恐ろしくなり、ある夜、人目を忍んで内裏を出ました。今はこのような所に住んでいますので琴を弾くこともないのですが、明日から京都の北・大原の奥へ思い立つことにしました。それで、この家の主の女房が今宵ばかりの名残を惜しみ、『夜も更けました。立ち聞く人もいないでしょう』と勧めるので、そのように名残を惜しむ心も優雅で、手慣れた琴を弾くうちに、あなたに聞き出されてしまいました」

 仲国は、袖をそぞろに絞りました。少ししてから、仲国は涙を抑えて言いました。

「明日から大原に思い立つとは、おそらく、出家されるお覚悟なのでしょう。しかし、出家してはいけません。あなたが出家してしまったら、高倉天皇はどうすればよいのでしょう。ゆめゆめ、出家はなりません。よく見張って、小督殿を家から出すな」

 仲国は、供に連れてきていた左右馬寮の下級役人や、禁中を警備する下級役人などに家を見張らせて、自分は馬で内裏に戻りました。夜は、ほのぼのと明けていました。

(2011年12月18日)


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