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(199)嵯峨の月夜、小督の「想夫恋」

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登場人物:高倉天皇、仲国、小督、想夫恋(そうぶれん:琴の曲)

 高倉天皇が「左右馬寮の御馬に乗って行け」と言いましたので、仲国は禁裏の厩から馬を賜り、月明かりが差す中、鞭を打ち、西を指して進みました。「を鹿なくこの山里のさがなれば悲しかりける秋の夕暮」と在原業平が詠んだ嵯峨の辺りの秋は、さぞあわれに思えたことでしょう。

 仲国は、門が片方のみに開く「片折戸」の家を見つけてはこの中にいないだろうかと馬の手綱をゆるめ、ゆるめて耳をすませましたが、琴を弾いている家はどこにもありませんでした。

 仲国は、小督が寺社に身を寄せていることもあるかもしれないと思い、釈迦堂をはじめ、堂を見て回りました。しかし、小督に似た女房はいませんでした。むなしく帰ることは、最初から来ないよりも気分が沈みます。ここからどこかへ行ってしまおうかと思い迷いましたが、高倉天皇が治める王地に身を隠す場所はありません。仲国は、どうしようと途方に暮れました。ちょうど、法輪寺がほど近かったので、小督が月の光に誘われて琴を弾いていることはないだろうかと、法輪寺の方へ馬を向けました。

 すると、亀山の近くで、松の一群がある中から、かすかに琴の音が聞こえました。峯の嵐か、松風か、はたまた、尋ねる人の琴の音か、仲国はおぼつかなく思いましたが、馬を早めて進むほどに、片折戸の家の内側から琴の音がすみわたって響いてきました。

 仲国が静かに聞いてみると、間違いなく、小督の爪音(つまおと)。曲はなんだろうと耳をすませれば、「夫を想って恋う」と読む「想夫恋(そうぶれん)」でした。

 仲国は、「間違いない。高倉天皇を思い出して、多くの曲の中から『想夫恋』を弾くことの優雅さよ」と思い、腰から笛を取り出し、少し吹きました。それから、門を軽く叩くと、琴の音はすぐにやみました。仲国は、「これは内裏から仲国が使いに参った。開けてくれ」と告げました。しかし、門をいくら叩いても、返事がありませんでした。

(2011年12月18日)


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