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(197)小督(こごう)

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登場人物:高倉天皇、小督、隆房

 葵の前の死で高倉天皇が恋慕の涙を流し思い沈んでいるので、慰めようと、中宮・建礼門院の御方から、小督殿という女房が送られてきました。

 この小督は、桜町中納言・成範(しげのり)の娘で、禁中一の美人、また、比類なき琴の名手でした。まだ少将だった冷泉大納言・隆房が見初めた女房です。隆房は、はじめは歌を詠み、文を送りましたが、恋文がつのるばかりでなびく気配がありません。しかし、さすがに情に流されたのか、ついに、小督は隆房になびきました。

 しかし、今、小督は高倉天皇に召されました。そうなってしまってはどうしようもなく、別れの涙は尽きず、袖が乾くことはありませんでした。

 隆房は何としても小督をもう一度見ようと、なんとはなしに常に参内し、小督のいる局の辺りや、彼方、此方を、たたずみ歩きました。しかし、小督は、わが君に召された以上は、隆房が何と言おうとも言葉を返さないと決め、人伝てに情を交わすこともしませんでした。隆房は、もしやと思い、一首の歌を詠んで、小督のいる局の御簾の中へうち投げました。

  思ひかね心は空に陸奥(みちのく)の

    ちかの塩釜近きかひなし

 遠国の陸奥にある「千賀(ちか)の浦」と、近くにいて遠い小督をかけて詠んだ歌でした。

 小督はすぐに返事をしたい気持ちを持ちましたが、高倉天皇に後ろめたいと思ったのでしょうか、手に取っても見ないで、すぐに童に渡して、庭に投げ捨てさせました。隆房は情けなく、恨めしく思いましたが、さすがに人に見られてはと思うとそら恐ろしくなり、急ぎ回収して懐に入れて出ましたが、なお、戻って、詠みました。

  玉章(たまづき)を今は手にだに取らじとや

    さこそ心に思ひ捨つとも

 玉章は文を交わす使者にかかる詞ですが、隆房は、今は小督に会うこともかなわず、生きていてはとにかく小督が恋しくなる、ただ死にたいと願いました。

(2011年12月17日)


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