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ミニシアター通信平家物語 > (194)高倉天皇の紅葉の沙汰

(194)高倉天皇の紅葉の沙汰

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登場人物:高倉上皇

 高倉上皇が天皇在位の時、民や臣下がつき従ったことは、おそらく延喜の醍醐天皇、天暦の村上天皇といえども並ぶことはなかったといわれました。大方の人は賢王と呼ばれ仁徳を施したとしても、それは成人した天皇が物事の善悪の判断をしてからのことで、高倉上皇は、幼かったころから、帝王の性質を持っていました。

 さる承安のころ(1171年−75年)、高倉上皇は10歳ほどだったでしょうか、あまりに紅葉を愛されて、皇居の北にある警護の武官の詰所に小山を築かせ、櫨雉冠木(はじかへで)の紅葉した木を植えさせ、紅葉の山と名づけ、終日見て暮らしても飽きないほどでした。

 しかし、ある夜、秋の嵐である野分が吹き荒れ、紅葉を皆、散らしてしまいました。落ち葉が散乱し、清掃担当者が朝の掃除をする際に、紅葉をすべて掃き捨ててしまいました。風が冷たい朝でしたので、残った枝や、散った木の葉をかき集めて、縫殿の陣にて、酒を温める薪に使ってしまいました。

 奉行の蔵人が高倉上皇の御幸よりも先に確認しておこうと急ぎ行って見たところ、紅葉は跡形もありません。「どうした」と問えば、「かくかくしかじか」と答えます。蔵人は、「ああ恐ろしい。これほど高倉天皇が執着して思っていた紅葉を、このようにしてしまったことよ。お前たちは、禁獄、流罪にもおよび、わが身もどのような怒りに触れるかわからない、とさまざまに心配していたところ、高倉上皇は寝殿を出て、すぐにその場所へ来てしまいました。高倉上皇が眺めると、紅葉はありません。高倉上皇は「どうした」と尋ね、蔵人は言葉もなく、ありのままを告げました。

 高倉上皇はことのほか楽しそうに、「和漢朗詠集上にある『林間に酒を暖めて紅葉を焼く』という詩の心を、誰がその者たちに教えたのだ。優雅なことをしたものだ」と笑い、かえって満足して、何の沙汰もありませんでした。

(2011年12月17日)


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