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(182)富士川の合戦:坂東武者

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登場人物:平維盛、平忠度、平忠清

 大将軍の平維盛は、東国に詳しい者として、長井の別当・斎藤実盛を呼び、「貴殿ほどの強弓の精兵は、関東八か国にはどのくらいいるか」と尋ねました。

 斎藤実盛はあざ笑いながら答えました。

「それについては、貴殿はこの実盛を大弓の者と思われているようだ。実盛は、わずか13束(そく:長さの単位、1束は拳1個=指4本)の長さの矢を射るにすぎない。実盛ほどの射手は、八か国にはいくらもいる。

 大弓と呼ばれる者で、長さ15束に劣る矢を放つ者はいない。弓の強さも、屈強な者が5、6人で張ったものだ。そのような精兵どもが射れば、鎧の2、3領などわけなく貫く。

 名田(みょうでん、名前を冠した荘園)を持つ大名の者で、手兵が500騎に劣る者はいない。馬に乗ればどんな道でも落馬することなく、けわしい場所でも馬を倒さず。いくさになれば、親を討たれよ、子を討たれよ。死ねば屍を乗り越えて戦う。

 西国のいくさと申すは、すべて、東国のいくさのようにはいかない。親が討たれれば退却し、法要を営み供養をし、喪が明けてから、再び攻め寄せる。子が討たれればその悲しみを嘆き、攻めようとしない。兵糧米が尽きたら春は田を作り、秋に刈ってから、攻め寄せる。夏は暑いといい、冬は寒いと嫌う。

 東国のいくさでは、すべてそのようなことはない。その上、甲斐・信濃の源氏どもは、土地に通じている。富士の裾野から搦め手に回ってくるかもしれない。このように言えば維盛殿を怖気づかせることができると思って言っているのではない。つまるところ、いくさは数の多い少ないによるわけではない。大将軍の戦略によると伝えられております」

 斎藤実盛の言葉を聞いた兵たちは皆、震えあがりました。

(2011年12月13日)


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