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ミニシアター通信平家物語 > (173)文覚の荒行

(173)文覚の荒行

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登場人物:文覚

 文覚が那智の滝に打たれ下流に流された時、荘厳で美しい童子が一人やってきて、文覚の手を取って引き上げました。それを見た人が不思議に思い、火を起こして、文覚の体を温めました。文覚は、前世からの定まった業報による死でない命であり、ほどなく息を吹き返しました。

 文覚は大きな眼を怒らせて、大音声を上げました。

「われはこの滝に、3、7、21日の間打たれて、滋救の三洛叉(洛叉・らくしゃは10万の意)までも行(ぎょう)を満たすという大願がある。今日はまだわずかに5日でしかない。いまだ7日にも満たないのに、何者がここまで運んだのだ」

 それを聞いた人は身の毛がよだって何も言えませんでした。文覚は再び、滝壺に戻り、立って滝に打たれました。

 2日後、8人の童子(不動明王の眷属で、八代竜王の出現を表す八代金剛童子)が来ました。童子は文覚の左右の手を取り、引き上げようとしましたが、さんざんつかみ合いをして、文覚は滝から出ませんでした。

 3日目、ついに、文覚は息絶えました。その時、滝壺を穢さないためか、髪の毛をみずらに結った童子が2人、滝の上から降りてきて、いかにも暖かそうで香ばしい手で、文覚の頭の上から、手足のつま先、手のひらのたなごころに至るまで、なでました。

 文覚は、夢見心地がして、息を吹き返しました。

 文覚が「そもそも、どのような人であれば、このように憐れみをくれるのか」と聞くと、童子は答えました。

「われらは、大聖不動明王の御使いで、(八代金剛童子の中の)金伽羅(こんがら)と勢多伽(せいたか)という童子だ。文覚が無上の願を起こし、勇猛の行を企てているので、行って力を貸してこいという、明王の勅命で来たのだ」

 文覚は声を怒らせて、「それでは、明王はどこにいるのだ」と問いました。

 童子は「(六欲天の第四の天で須弥山の頂上にある)都率天に」と答え、雲の上はるかに登っていきました。文覚は手のひらを合わせ、「そうか、わが行は大聖不動明王までも知っているこのなのだ」と言い、ますます頼もしくなり、また、滝壺に戻って、立って滝に打たれました。

 その後は、たいへんめでたい瑞相たちが多くあり、吹き付ける風も身に染みませんでした。落ちてくる水も湯のごとくで、そのようにして、3、7、21日の大願を終に成し遂げ、那智に千日籠もりました。

 そして、吉野南方の高山・大峯に3度、葛城に2度、高野、粉川、吉野の奥の山・金峯山、白山、立山、富士嶽、伊豆、箱根、信濃の戸隠明神、出羽の羽黒権現など、日本全国あます所なく行を行い、さすがにそれでも故郷は恋しかったのでしょうか、都へ帰ってみると、およそ飛ぶ鳥をも祈りで落としてしまうほどの、刃のようなするどい験者と言われました。

(2011年12月8日)


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