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(168)秦の始皇帝暗殺

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登場人物:始皇帝、燕丹、荊軻、田光先生

 また、王位が尊いことの先例を異国に問えば、燕の太子・丹は、秦の始皇帝に捕らわれて戒めを被ること12年、ある時、燕の丹は涙を流し、始皇帝に、「私は故郷に老母があります。暇を賜って、今一度、会いたいのです」と願いました。

 始皇帝はあざ笑い、「お前に暇を与えるのは、馬に角が生えて、カラスの頭が白くなってからだ」と告げました。

 燕丹は天に仰ぎ、地に伏して、「願わくは、馬に角が生え、カラスの頭を白くしたまえ。本国へ帰って、今一度、母に会いたい」と祈りました。

 かの法華経の妙音菩薩は天竺の霊鷲山の浄土に至って、不孝の輩を戒めました。孔子・顔回は、中国の震旦を出て、忠孝の道を始めました。冥界と顕界の三宝(仏・法・僧、すなわち仏のこと)が、燕丹の孝行の志を憐れみ、頭に角の生えた馬が宮中にやってきて、頭が白くなったカラスが庭の前の木に住みました。

 秦の始皇帝は、頭の白いカラスと、角が生えた馬に驚きました。しかし、王の言葉を違えることはできないので、太子・燕丹を許して、本国へ帰しました。

 始皇帝は悔しがりました。そこで、秦国と燕国の境に楚という国がありました。大きな河が流れていました。その河に渡してある橋を楚国の橋といいます。

 始皇帝は先に官軍を遣わして、燕丹が橋を渡る際、橋の中程を踏んだら落ちるようにしておきました。そこに燕丹がやってきましたので、たまりません。燕丹は、真ん中から落ちました。しかし、水には少しも濡れずに、平地を行くようにして、向こう岸までたどり着きました。燕丹がこれはどういうことだろうと思って振り返ると、無数の亀たちが水の上に浮いていて、甲羅を並べてその上を通したのでした。これも、冥界と顕界の仏菩薩が孝行の志を憐れんだからでした。

 燕丹は、恨みを持ち、始皇帝に従いませんでした。始皇帝は軍を派遣して燕丹を滅ぼそうとしました。燕丹は大いに恐れ、荊軻(けいか)という強者に、秦の始皇帝暗殺を語らい、大臣にしました。荊軻がまた、田光先生という強者に、始皇帝暗殺を語らいました。しかし、田光先生は「君は、私が若く旺盛だった時のことを知っているので、そのような頼みをしてきたのだろう。駿馬は千里を飛ぶように走るといえども、年老いてしまえば、のろまな馬にも劣る。私は老いた。いかにも、依頼には応えられない。ついては、良い強者を説得して、参上しよう」と言いました。

 荊軻は、田光先生へ、「くれぐれも、この大事を漏らしてくれるな」と言いました。

 荊軻のその言葉を聞いた田光先生は、「もし、この大事が漏れたら、まっ先に疑われるのは私だろう。人に疑われることに勝る恥はない」と言って、荊軻の家の門前の桃の木に頭をぶつけて打ち砕き、死んでしまいました。

(2011年12月6日)


(169)秦の始皇帝暗殺、その2

(170)秦の始皇帝暗殺、その3

(171)秦の始皇帝暗殺、その4


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