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(122)源仲綱

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 そもそも、年来日頃何事もなく過ごしていたこの三位入道・源頼政が、今年どのようなことを思ってか謀反を起こしたのかというと、平家の次男・平宗盛が奇怪なことばかりをしたからです。だから、人は、世にあって、みだりに言うべきでないことを言い、するべきでないことをすることに対しては、よくよくに思慮深くならなければなりません。

 例えば、源頼政の嫡子である伊豆の守・源仲綱のもとに内裏まで聞こえた名馬がいました。名前を「木の下(このした)」といいます。体が褐色で尾や足先などが黒い鹿毛(かげ)の馬で、乗り心地といい、走りようといい、気性といい、類まれなき名馬で世に並ぶ馬はいないと言われました。

 宗盛は、仲綱に使者を立てて、「世に聞こえた名馬を拝見したい」と伝えました。

 仲綱の返事は、「そういう馬を持ってはいますが、余りに乗り疲れさせてしまいました。この程、しばらく休ませるために田舎へ出しています」というものでした。

 宗盛は「それならば仕方ない」と、その後は仰せごとをしませんでした。

 しかし、宗盛は、並み居る平家の侍たちが「ああ、その馬は一昨日もいたぞ」「昨日も見た」「今朝も庭で乗っていた」などと口々に言うのを聞き、「さては、惜しんだな。憎い。奪ってやろう」と、侍を遣わして、一時期に、5度も6度も、7度も8度も催促しました。

 源頼政がそれを聞き知り、仲綱に、「たとえ黄金をもってしてまろめた馬といえども、それ程に人が所望するものを惜しむべきではない。その馬をすみやかに、六波羅へ遣わせ」と言いました。

 仲綱は、頼政からそう言われてしまってはしかたがありませんので、一首の歌を書き添えて、六波羅へ送りました。

  恋しくば来ても見よかし身にそふる

    かげをばいかが放ちやるべき

         *身の影と馬の鹿毛をかけている

 宗盛は、歌の返事はしないで、「天晴れな馬である。馬はまことによい。しかし、余りに惜しんだのがにくい。主の名前を焼き印せよ」と命じ、仲綱という焼き印をして厩に入れました。客人がくると、「その仲綱めに鞍を置け」「仲綱めを引き出せ」「仲綱めを打て」「仲綱めをはれ」などと言いました。

 仲綱はそれを伝え聞いて、「身にも代えて大事に思う馬、権力で奪われたのさえくやしいのに、そのうえ、天下の笑い種になるとは心安からぬ」と大いに憤りました。

 頼政は、「平家の者どもは、私たちに何ができると侮ってこのようなふざけた事をするに違いない。それならば、命を生きながらえてでも目にものを見せてくれようぞ。機会をうかがうにしかず」と言いました。しかし、自分では思い立つことなく、以仁親王に謀反を勧めた、とはのちにうわさされたことです。

(2011年11月20日)


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