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(2)平忠盛の殿上闇討ち事件

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 平家物語は、「祇園精舎の鐘の声」で始まる導入部のあとに、平清盛の父「平忠盛」を紹介するエピソードが書かれています。

殿上闇討ち事件


 忠盛がまだ備前の国守でしかなかったときのお話です。忠盛は鳥羽上皇のために寺院を造営し、三十三間堂を建て、一千一体の仏様を安置しました。褒美として忠盛は新たに但馬の国の国守に任命されました。鳥羽上皇はなおも喜んで忠盛の禁裏への昇殿を許しました。忠盛が36歳のときでした。

 忠盛の地位が上がると、「殿上人」と呼ばれる清涼殿殿上の間に昇れる人たちが忠盛をねたみました。節会の夜に、忠盛を闇打ちする計画を練ります。計画を耳にした忠盛は、武家の家に生まれた者が不慮の恥を残しては家のためにも自分のためにもならないと決意を固めました。

 忠盛は当日、刀を腰にさげて宮中に参上しました。また、前庭には、忠盛を闇打ちする計画を耳にした家貞という忠盛の家臣の一人が畏まって控えていました。家貞は「狼藉者、さがれ」と言われてもがんとして動きません。

 忠盛は参内に先立ち、暗がりの中で炎に向かって刀を抜き、刀を顔のあたりに近づけます。闇討ちしようと計画していた殿上人たちは、目をみはりました。忠盛が刀を抜き庭には家貞が控えていましたので、殿上人たちは忠盛を襲うことができませんでした。

 いち難を逃れた忠盛ですが御前で舞を舞った際、殿上人たちから侮蔑されてしまいます。殿上人たちは先ほどの悔しさもあってか「伊勢瓶子(へいじ)は素瓶(すがめ)なりけり」とはやしたてました。平家は長年のあいだ都に住むこともなく伊勢の国に住み着いていました。殿上人たちは伊勢産の徳利(瓶子)は粗悪で「かめ」にしか使えないとはやしたのでした。また忠盛の目はやぶにらみ(=すがめ)でした。忠盛はどうすることもできなくて、宴会が終わらないうちに退出してしまいました。

 忠盛は紫辰殿に来たときに人の見ている前で腰の刀を雑役を司る女官に預けました。忠盛が出てくると前庭に控えていた家貞が、いかがでしたかと様子を聞きました。ぐちのひとつもこぼしたい気持ちでしたが、宴会でのありさまを告げたら家貞はそのまま殿上に切り込んで行ってしまいそうな顔つきをしています。忠盛は格別のことはなかったと答えました。

 五節が終わると、公卿や殿上人たちは刀を帯びて参内した忠盛の行為が礼を破ったことだと申し出ました。家臣を前庭に控えさせるなど前代未聞だと言い添えて、忠盛を罷免するように訴えました。それを聞いた鳥羽上皇はびっくりします。忠盛を呼んで問いただしました。忠盛は畏まって、家臣が庭に控えていたことはまったく知らなかったことですが、最近悪巧みをする人たちがいるようで、そのことを知った年来の家臣が主人の恥をふせごうと自分には言わずに庭まで参じてきたのであれば、それはもう自分にはどうすることもできませんと申し開きをします。また、刀については、預けてあるので取り寄せて吟味してから処罰をくだしてくださいと伝えました。

 鳥羽上皇はもっともな言い分だと、すぐに刀を持ってこさせました。刀身に銀箔を押し付けただけの木刀でした。上皇は、恥辱を逃れるために帯刀するもあとで訴えられることを想定して木刀を用意した周到さは神妙であると感心しました。また、家貞の行動についても、いっぽうでは武家の慣わしでもあると認めました。鳥羽上皇はかえって忠盛をほめたほど。忠盛はお咎めなしとなりました。

平忠盛の出世


 忠盛は順調に出世したようです。忠盛の子どもたちはみな都で要職に就き昇殿も許されました。もはや、殿上でも交わりを嫌われることはありません。忠盛が備前の国から都にのぼってきたときに、鳥羽上皇は明石の浦はどんな様子であったかと忠盛に聞きました。忠盛は、

有明の月も明石の浦風に波ばかりこそよると見えしか

 と答えました。鳥羽上皇は大いに感心してこの歌を金葉集に収録しました。

 忠盛は院の御所に恋人を持っていました。夜ごとに女房のもとに通います。あるときに忠盛は女房の部屋に扇を忘れていきました。扇のはしには月が描かれていました。扇を目ざとく見つけた女房仲間がこれはどこから漏れてきた月影かと忠盛の恋人をはやしたてました。恋人は、

雲居よりただもりきたる月なればおぼろげにては言はじとぞ思ふ

 と詠みました。忠盛はますます女房を恋しく思いました。薩摩守忠度(ただのり)の母親がこの女房です。類は友を呼ぶと言われますが、忠度も風流で、女房も歌道に優れていました。忠盛は刑部省の長官である刑部卿を最後にして58歳で世を去りました。

 桓武天皇を祖としながらも、平家は地方の国守でしかなかった家柄でした。その平家が都に進出して地位を上げていきました。忠盛のエピソードは、平家の中央進出とそれに伴う権力闘争の様子を伝えているような気がしました。平家は、権力争いの中で恥を忍んだこともあったのかもしれません。あるときは武家としての慣わしで、またあるときは知略をもって、じょじょに権力を手にしていったように思えました。


平家物語のあらすじと登場人物


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