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(1)祇園精舎

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 平家物語の冒頭部分を引用します。


 祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響あり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理を顕はす。奢れる者久しからず、ただ春の世の夢の如し。猛き人も遂には滅びぬ。偏に風の前の塵に同じ


 平家物語の冒頭の章である「祇園精舎」は、世のことわりを説いたあとに、「遠く異朝をとぶらふに」と続きます。秦の趙高や唐の禄山の名前をあげて、政治をおろそかにして天下を乱したために久しからずして滅んだ例は外国にもあることを伝えます。そして、わが国でも……と続き、平将門や藤原純友の名前をあげます。みな奢れることも猛き心も並外れていましたが、最近では平清盛の有様を伝え聞くと言葉にも言い表せないと語っていました。

 平清盛の名前を出したあと、「その先祖を尋ねれば」と続き、平氏の系統が語られます。桓武天皇の第5皇子である葛原親王の9代目の子孫が平正盛。正盛の子が忠盛で、忠盛の嫡子が平清盛です。

 葛原親王の子である高見王は無官無位のまま死にました。高見王の子である高望王のときにはじめて「平」という姓をもらって皇族から臣下にくだりました。上総介になります。上総介とは、上総の国(千葉県中南部)の国守で次官のことです。国府の長官は国司ですが、国司は都にいることも多く、実質的には介(すけ)は長官でもありました。高望王の子の良望は名前を国香と改めました。

●桓武天皇−葛原親王−高見王−高望王−平国香−−−正盛−忠盛−清盛

 国香から正盛に至る六代は諸国の国司でしたが、まだ昇殿は許されませんでした。そのことが語られて「祇園精舎」の章は終わります。

 平家物語の語り手は、最初に、人間のいとなみは無常であるという価値観を提示しました。権力の極を手にした人が久しからず滅んだ例は外国にもわが国にもあることを告げます。そして、このごろでは平清盛という人の有り様が言葉にできないほどであると切りだしました。人の世のことわりを説き、歴史がそのことを証明していることを告げて、最近の見聞から平清盛を紹介することで読者を平家物語の世界に引き込みます。

 そしてこの冒頭部分には、人間の行動のむなしさを達観した語り手が全てを見届けた視点から語るという平家物語の全編をとおして貫かれている「語り手の視点」が提示されていると思いました。平家物語の語り手はさめたとも思えるような視点から人間たちを見渡しています。しかし、これから皆さんと一緒に読み進めていくように、平家の男たちは名を惜しんで命を捨てます。源氏の男たちは浮世の道理に従って平家の若武者たちの首をはねます。女たちは、恋しさと悲しさを胸にしまったまま水底の都に落ちました。感情すらも超越したような平家物語の語り手の澄んだ視点の持ち方が、かえって、登場人物たちが心の中で燃やしていた炎を浮き彫りにしているように思えます。

 平家物語は、ある時代を必死になって生きることしかできなかった人間たちをうたいあげた詩だと思います。そんな登場人物たちのうしろ姿を追いながら、皆さんと一緒に、これから平家物語の世界へと旅して行きたいと思います。


平家物語のあらすじと登場人物


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平家物語のあらすじと概要