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恋するおもちゃ/サタミシュウのあらすじと読書感想文(ネタバレ)

2012年11月17日 竹内みちまろ 参照回数:

 『恋するおもちゃ』(サタミシュウ)は、複数の時間軸と語り手が交差しながら進む物語でした。「ご主人様」の経歴が紹介され、女性たちとの関係性も浮き彫りにされています。「性癖」よりも、「生き方の選択」に焦点を当てられていました。ネタバレになりますのでご注意ください。

恋するおもちゃのあらすじ


 映像の専門学校を卒業後、就職が決まらない真一郎は、まどかの2DKのアパートに転がり込み、専門学校で事務のアルバイトをしていました。まどかと暮らすと同時に、まどかの部屋の斜め上に住んでいる、離婚して娘の百花を独りで育てている美雪と逢瀬を重ねていました。美容師の美雪は、はっきりとは言いませんが夫の暴力が原因で離婚しているようで、真一郎の股間を「週に一度の癒しなの」と言います。真一郎は、そんな美雪に「全部出してね」と言われるままに出します。「実際にはやらなかったが、美雪の顔の上に、だらしなくよだれを垂らしたい感触を覚えた」

 真一郎とまどかの関係は、まどかを蛇柄のベルトで万歳の格好で縛り、尻を突き出したまどかがようやく流し台のへりに手を添えると、ものすごい勢いで尻に腰を打ち付けるような間柄でした。まどかはティッシュで尻と、床と、スカートを吹くと、真一郎へ微笑みかけます。真一郎が、まとかの頭をくしゃくしゃと撫でると、「一瞬まどかはびくっと身構えたが、髪を撫でられていることがわかると、はにかんだように笑」いました。

 真一郎の物語と同時進行するのは、「わたし」による独白です。語り手の「わたし」は、「ご主人様」と初めて出会った5年前の「わたしの30歳の誕生日」から物語を振り返ります。「ご主人様」と出会うまでの「わたし」は、「誰からもちやほやされていて、それを十分承知しながらも、気づいていないような振る舞いをしている嫌な女でした」。それが、「ご主人様」となる須磨聖と出会い、須磨が「おもちゃのように扱う」と告げれば、「嬉しいです」と答える関係へ。須磨は「S先生」と呼ばれる著名なカメラマン。須磨の師匠は「K教授」と呼ばれる有名監督でした。「わたし」の一人称による独白で、「わたし」が、須磨の股間を「いちばんの宝物」と呼ぶようになるまでの生活などが語られます。

 須磨は、中肉中背で、腹は出ていませんが鍛えてはおらず、日焼けはしてませんが色白ではないという男ですが、女を「性」という視点から見ないようになっており、自分の「ジャンル」の女を見極めることができ、女を「おもちゃのように扱う」というような、普通の人がやらない行為に「生」を感じる男でした。

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恋するおもちゃの読書感想文


 『恋するおもちゃ』のストーリーはまだまだ展開するのですが、『恋するおもちゃ』を読み終えて、「生き方」あるいは、「生き方の選択」というものを考えました。その中で、真一郎の専門学校時代の同級生でモザイク職人をしている笹崎が印象に残りました。

 笹崎は、マニアックな女優に恋をしてしまいます。スイッチが入ってしまうことってあるのだなと自分でも自覚するほど冷静ではあるのですが、いつも仕事をしている映像処理の現場で撮影が行われた際、画面の中の存在であるはずの女優本人から「大変だと思いますが、頑張ってくださいね」「ありがとうございました」などと声をかけられます。笹崎は、プライベートで誘われたと思って燃えた女優が実は撮影の延長だったことを知らされ、それでいて後にはそれを仕組んだ監督に媚を売るような女優の姿を見て、「僕は、あなたを受け止めきれない」と言い放ちます。女優は、意味がわからず困惑しました。笹崎の業界では、女優は主役であり、大御所の監督もいる前でそんなことを言ってしまったらあとで問題にされることもあるでしょうし、何よりも、笹崎の思いは笹崎個人のもので、それを女優にぶちまけても、「だから何?」と言われてしまえばそれまでです。ただ、その場面の笹崎には、意志を持って行動する人間の説得力やすごみを感じました。

 『恋するおもちゃ』では、笹崎に感じたような説得力を、ほかの登場人物たちからも感じることがありました。30歳を過ぎるまではさえない男だったという「ご主人様」は、手当たり次第に女を抱きまくった時期をへて、40歳を過ぎた今は、自分の「ジャンル」の女だけをたっぷりとかわいがる(いたぶる)ことにしていましたが、「わたし」と関係を築くきっかけは、なじみの編集長に誘われた「ご主人様」が、蝶よ花よとちやほやされていた「わたし」の誕生日パーティーに行ったことでした。「ご主人様」は、静かに、淡々と「わたし」の無礼を指摘してから席を立ちます。その「ご主人様」を「わたし」は追いかけたのですが、その「事件」があったために、「わたし」が「つまらない嫉妬を持つ人たちから、あからさまに仕事を減らされたりした」のと同時に、「ご主人様」も、編集長をはじめ角が立つことは多くなっています。

 しかし、『恋するおもちゃ』の世界の人間たちは、それでも相手に言葉を伝え、相手を叱り、そして、相手を追いかけていました。人からどう思われたいだとか、どう見られたいだとか、思うことがあるのに口にはせずに様子を見るだとか、またの機会にとっておくだとか、そういったことをしない人たちです。本能の赴くままというわけではなく、そこには、何がしかの意志のようなものを感じます。作中に登場する「性癖」やプレイに関しても、興味があるだとか、演技をするだとかではなくて、意志を持って自分からのめり込んでいました。

 『恋するおもちゃ』を読み終えて一番強く感じたのは、言葉を伝えることでも、叱ることでも、追いかけることでもいいのですが、それらは相手がいて初めて成立する現象であり、人間は一人では生きることはできないのだなと思いました。

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